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「お買い上げありがとうございます」  花束を買った。久しぶりに会うなら、ちょっとびっくりさせるくらいがちょうどいいかなって。 「綺麗な花束……」 「しらたきが元カノにプレゼント! なんてね」 「やめてよー、元カノがいらないって言ったら私が……なんでもない」 「花束、欲しい?」 「何でもないー!」  花束を持って彼女の居る場所へゆっくりと歩いていく、近づいてしまうんだ、本当は会いたくないのかもしれない、会いたくなんて、なかった。  夕暮れ時になっても雲は晴れず俺はしらたきとそこにいる。  彼女の目の前に跪いた、涙が溢れた。既読すら付けず連絡先も引っ越し先も教えてくれなかったけど、それは俺のことに興味が無いだけで彼女は普通に生活していると思っていたんだ。  今俺は彼女の墓の前にいる、あの時ああすればよかったなって勝手に後悔している。花束の包み紙をくしゃくしゃに握りしめた。 「ご主人様、ご主人様!」 「ごめんなハルカ……俺、今まで気づいてやれてなくて」 「ごしゅじんさま……ゆ、ユウキ!」  しらたきが俺のことをユウキと初めて呼ぶ、後悔で真っ白な顔をしらたきに向けた。 「ユウキ……わかってたんだよね、わかってたから、私が居るんだよね? ね? 信じて、ハルカなんだよ。しらたきって名前かわいいよね、どうしてしらたきなんだろうね、恥ずかしいなぁ……」 「しらたき……?」 「お花、もらうね、えへへ、どう? かわいい?」 「かわいい……しらたき、涙が……」 「ふぇ、何でかなぁ、ユウキ、ゆうきぃ……」  忘れてた声が溢れてくる、何で今まで気が付かなかったんだろう。そっと触れようとすると感触が返ってこない。 「ユウキが忘れてただけなんだよ、ずっとそばにいたんだよ、大好きだよ! でも、きっとそれはユウキの願望なんだね……」 「願望って何だよ、俺はいつでも準備できていて」 「出来てないよ! 動揺してる、声が震えてる、涙だってどまってない”、ぅぅ、うわあ”あ”あ”ぁぁぁぁ」  二人して泣いている、涙をかき消すように夕立が降り注ぐ、あんなに雨が降りそうな気配はなかったのに。  あの時最初に出会ってから二人はずっと一緒だった、時々離れることがあったとしても最後には必ず一緒だった。 「奇跡だったんだよ、ユウキが私の事を忘れてなかったから」 ――ゲーム内の女の子が現実に現れる機能? そんなものないよ、さすがのスマホもそこまで出来るはずがないだろ 「忘れてなかったからユウキと一緒に生きていけたんだよ」 「ああ! これからもずっと!」 「ユウキは良い子だから気づいてる」 「やめろ……やめろよ……」  しらたきからほんの少し離れる、しらたきは墓の前に立ち空を見上げた。 「私は行くよ、ハルカは死んだの」 「お前まで行くことは無いだろ!? 何で行くんだよ」  声が震えたまま口が動く。しらたきは涙を雨で流し、澄んだ声で語りかけてくる。一人でも大丈夫だよ、と。 「一人でも大丈夫だよ、ユウキ」 「うあ……ああ”あ”あ”」  この墓の周りだけ空が晴れシャワーズに光を照らす。まるで天使のようだ、そうじゃない、天使なんだ。しらたきはこう言うだろう。今までありがとう。 「今までありがとう、ユウキ」  俺がかけるべき言葉はこうだろう。 「一人でも頑張るよ、ハルカ」 「違うーー! 素敵なパートナー、見つけて! ね?」  しらたきは最後まで無垢な笑顔を見せてくれた。
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