朝日が最期を告げる日

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家の玄関を開けると、明け方の空はまだわずかに薄暗かった。 もう夏が終わるのか、とじんわりとした寂しさに襲われる。 数週間前はうるさかった蝉ももうほとんどいない。 散歩にはちょうどいい静けさだろう。 「ちょっと早かったね。」 続けて家を出てきた彼女が言う。隣に並んできた彼女の髪が、わずかに涼しさをまとったそよ風になびいた。その横顔を見て、さっきとは比べものにならない寂しさと痛みが、僕の胸に湧き上がってきた。 「あと1時間くらいはあるかも。」 対象に、彼女の声はいつも通り穏やかだった。 「思ってたより長くて嬉しい。」 ふわりと笑ってみせる。 長いもんか、と僕は叫びたかった。 その通りだろう。 最愛の人の寿命があと1時間だなんて、長く思えるはずがない。
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