朝日が最期を告げる日

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30分ほど歩いたところで、大きな橋に行き着いた。 比較的近所にある割には、市街地とは逆方向にあるものだから近頃はめったに来ることは無い場所だった。 僕達がここをよく通っていたのは、60年ほど前の、この先にある大学に二人共が通っていた頃だった。 「久しぶりだね」 彼女の声の調子が一際明るくなって、軽やかに歩調を早めた。青と白の、夏らしいワンピースが揺れた。 その愛らしい姿を眺めて湧き上がってくるぬくい愛おしさと、「その時」までのタイムリミットがつきつける冷たい痛みで、僕の心はもうぐちゃぐちゃだった。 この日をここで迎えたいと言ったのは彼女だった。 思い出深い場所だから、ということに加えて、朝日が綺麗だから、というのがその理由だった。 彼女は朝日が昇るのを眺めるのが好きなのだ。刻一刻と変わっていく空の色が全て美しいから、と言っていた。早起きが苦手な僕はその感動を味わったことがあまりなかったけど、確かに家を出た頃から空の色は次々に変わっていっていて、彼女と会話をしながら幾度も視界が塗り変わっていく様も、僕は楽しんでいた。 でも空の色が変わっていくということは、徐々に「あの時」が、確実に近づいているということを意味している。 家を出てからだいぶ歩いたから、もう残り30分もないだろう。 時計を持ってこなかったのは正解だった。 残り時間を正確に知ってしまえば、本当に僕の心は潰れてしまいそうだった。
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