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ひとつの孤独
その朝、屋敷を出ると、外はすっかり冷たい空気に満たされていた。
秋の終わりは好きだ。乾いた空気は清々しく、空はどこまでも高い。久しぶりに飛びたくなるような気分を堪えて、眞一は高校への道を歩きだした。
入り組んだ路地を抜け、坂道の上から学校のグラウンドを見下ろす。今日も、朝練中の陸上部が列をなして走っていた。
眞一はその隊列のなかに『彼』を見つけた。
名前も学年も知らない男子生徒。彼は毎朝列の先頭にいて、誰にも追い越されることなく走っている。
その様子から、彼が陸上部のエースであることは間違いなかった。
風のように駆ける彼には誰も追いつけない。彼はいつも、他の部員たちとは違う、遠いところにいる。
彼が纏う優越感と孤独感を、眞一はいつしか自分と重ね合わせていた。
彼の短い黒髪、長い手足、ストイックそうな眼差しを確認するのは、眞一の毎朝の日課だった。
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