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◯
屋敷に帰る頃には、すっかり日は落ちていた。
「おかえりなさい、眞一さん」
屋敷の使用人である松井が、いつものように玄関で眞一を迎えた。
「ただいま」
短く返事をして、眞一は長い廊下を渡って自分の部屋へと戻った。
制服を脱いで、ハンガーにかける。ふとブレザーの端に猫の毛がついているのが目に入った。
体格の良い聰の腕に抱えられ、すやすやと眠る猫の姿が思い出され、眞一はふっと微笑んだ。
その時、ノックの音がして、眞一は慌てて部屋着に着替えた。
「はい」
答えると、松井が部屋の扉を少し開けて顔をのぞかせた。
「今日のお夕食はご一緒にと、紘様が申しておられました」
眞一のからだに緊張がはしった。
紘というのは、鷹羽家の現当主だ。当主と言っても歳は五つほどしか離れていない。
紘は体が弱く、なにより気難しい人間なので、夕飯は紘が望んだ時しか共にしないのだった。
「わかりました。紘の部屋に行けばよいですか」
「はい。もうご用意が整っております」
「……今、行きます」
こんなにも早く、外出のことを話す機会が来るなんて。
眞一は緊張した面持ちで、松井と共に部屋をあとにした。
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