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柏木陽斗の場合 その2
柏木陽斗は目深に目深に被った帽子を少し上げて、ショウィンドウに映るディオの姿にドクンと胸を鳴らした。
先日事務所の社長から、ディオ・ランバート・ヴィルテアなる人物を、陽斗のマンションにホームステイさせると云われてから、反発した陽斗が家出をしたのだ。
仕事はこなすが自宅には帰らず、高校時代の友人の自宅に転がり込んだりしていたが、とうとうディオに見付かったのだ。
ーーーなんで僕の家なのに、なんであいつと一緒に住まなきゃなんないのさ? 奈緒って人の所に行きゃあ良いじゃんか。
それに。
ーーー僕…失恋しちゃったんだな。
憧れていた細川大樹は、大事な恋人が居る。
綺麗で優しい高平奈緒。
ーーーいっそやな奴なら、とことん嫌えたのに。
「今夜は誰の家に泊まろうかな」
「…陽斗?」
呼ばれて振り返れば、高校時代の友人の1人が、びっくりして陽斗を見詰めていた。
「高木?」
「おう。久しぶりだな~何こんな時間に? 撮影終わったのか?」
「うん」
「何々? うわ、本物?」
すらりと背の高い高木が、連れの男に頷いてみせた。
「陽斗こいつルームメイトの充」
「こんばんわ」
陽斗は背の高いもう1人の男に挨拶をする。
「すげ~俺の姉貴あんたのファンでさ、もし良かったら俺らのアパートに遊びに来ねぇ?」
「今から?」
「そうしろよ。俺ら2人だけだし…ってか、芸能人は忙しいか?」
訊かれて陽斗は顔を横に振った。
「大丈夫。行って良いなら行きたい! ってか今日泊めて貰っても良いかな?」
高木と充が顔を見合わせて、にやりと笑った。
「良いぜ? ちょうど俺らナンパしに銀座に来たけど…良いや今夜は」
「ナンパ? お前相変わらずだな。まさか付き合ってる彼女とか居たりするのか? 高校の頃よく彼女変わってたけど」
「そうだっけ?」
高木は陽斗の肩に手を回して歩き出す。
陽斗はチラリと背後を見たが、もうディオの姿は見えなかった。
ーーーなんだよあいつ…。
胸がキュンとして、寂しさが過ぎる。
ーーー別に、あんな奴知らないし、どうせ社長か草壁さんに頼まれたんだろうし…。
なんだかムカつく。
途中、コンビニに寄って菓子とアルコール類を調達した3人は、高木の住むアパートへ遣って来た。
築30年だという6畳2間の古い部屋を見渡して、陽斗はちょこんと座った。
脱ぎ散らかした洋服や、エロ雑誌が無造作に置かれている。
「狭くて悪いな」
「そんな事ないよ。小さい時は似たような所に居たし」
陽斗はどこで寝ようかと辺りを見渡して、缶ビールを飲み出した充に飲めと促された。
「僕、アルコール飲めないんだ。ジュースで」
「少しぐらい良いだろう?」
陽斗は困って高木を見た。が、高木は何やらテレビのリモコンを持ってごそごそと動いている。
「高木?」
陽斗はやんやと騒ぐ充を余所に、高木に近付いた。
「面白いやつ借りたんだ。観たら結構面白くてさ。そんなに良いなら見繕って体験してみようかって、充と話してたんだよな」
「そうそう」
「?」
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