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6の章
と、突然体を強く揺すぶられたのでハッと目を開けると、娘は自分の寝室のベッドの上に横たわっていて、父親の領主と、隣の領地の息子に、不安げな面持ちで顔を覗き込まれていました。
「あ……わたし……?」
「よかった、気がついたか」
父親はホッと胸を撫で下ろして言いました。
「ひどくうなされていましたが、大丈夫ですか?」
カエルにそっくりの顔で、求婚者が心配そうに言いました。娘はゆっくりと体を起こしました。
「いったいわたし、どうしたのかしら……?」
「さっき館を出て行ったと思ったら、庭の方からおまえの悲鳴が聞こえたのだよ」
「それで、わたしとお父上で駆けつけてみたら、なんとあなたが倒れているではありませんか。すぐ近くには大きなネズミまで倒れていたので、これは何事かと」
ネズミ、と聞いて、娘は震え上がりました。
「ネズミですって? それで、そのネズミはどうしたの?」
「死んでいたから、下働きの者に命じて、森に埋めに行かせたよ」
「あぁ、よかった……。わたし、とっても悪い夢を見ていたんだわ……」
娘は心の底から安堵の息を漏らしましたが、一度ならず二度も妙な夢を見たのも、もしかすると天からのお示しかもしれないと、にわかに不安になりました。父の言う通り、分を弁えて身の振り方をよく考えねばならないのかもしれないと思いながら、怖れの色がチラチラとよぎる美しい瞳で信心深い父親の領主を見つめると、父は娘のいつにない弱気な様子を心配し、
「いったいどういうことなんだ? 何をそんなに怯えているのだね? どうしておまえはあんなネズミと一緒に、あそこで倒れていたのだね?」
「それは、わたし……。よくわからないけど、ネズミに襲われそうになって……」
「なんと! それではあなたは勇敢にもネズミと闘われたのですな」
隣の領主の息子は嬉々とした声を上げました。
「それは素晴らしい。あなたは美しくて頭が良いばかりか、逞しさも併せ持った類稀なる女性なのですな! わたしは世間のつまらない男たちのように、女はなよなよと、か弱い方がいいなどとは、これっぽっちも思いません。これからの時代は、やはり女性が中心にならなければ! わたしは喜んであなたに従いますよ」
娘は、領主の息子がうやうやしく差し出した手を見つめました。娘はゴクリと唾を飲み込んで、恐る恐る差し出された手を取ろうとしましたが、その手は見るからにねっとりと汗ばんで、男の顔同様、カエルの手のひらにそっくりで、どうしても握り返すことができませんでした。
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