第一章

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第一章

「あの日以来、ようやく姿を見せたと思ったら……こんな所で何をしているのかしら?」 「それはこちらの台詞です。会長」  クシビは目の前の生徒会長と対峙する。  二人は決闘用のステージに立っていた。周りからは観客が声を上げて目を向けている。  真剣な面持ちで訴えるクシビ。まさか、こんな敵地の真ん中に一人で飛び込むとは……。  外放区の外れにあるこの場所は、普段過ごす平穏な世界とは切り離されている。 「会長、ここは危険です。ですから俺に任せてください。」 「いいえ、危険なら尚更退くわけにはいかないわ。これは私達の問題でもあるの」 「大丈夫です。それも含めて俺が何とかしますから」 「まったく君は……。いつからそんな大人のような態度ができるようになったのやら」  呆れるように息を吐くソノカ。この成長ぶりは、昔の魔術を教えを請うていた姿とはまるで似つかない。  ようやく姿を見せたと思ったのに……。 「………。」  黙ったままその場を動かないクシビ。 「先輩としては嬉しいけど、少し複雑な気分でもあるわね。でも、今は退くことは出来ないわ」  そう答えるソノカ。昔は人の言うことを素直に聞くような後輩だったのに、今ではこんな口応えまで……。 「どうしても言うことを聞いてくれないんですね」  悲しみの色を滲ませるクシビ。ソノカは、その見慣れない表情を見据える。こんな表情を見たのは初めてだ――。 「そうなるわね。悪いけど、私達にも都合があるの」 「わかりました。では……実力行使で帰ってもらいます」  剣を構えるクシビ。試合開始の合図が出されようとしている。観客席からは怒号のような掛け声が飛んでいる。  そして、ソノカとクシビが互いに身構えた。  試合開始の合図が出されて、時間が経過する。  多くの観客が声を上げて眺めている中――先に膝を付いたのはソノカだった。 「うっ、参ったわね……。ずっと後輩だと思っていたのに、もう私よりも強くなるなんてね……」 「いえ……俺がこうなれたのは会長のおかげでもありますから……」  申し訳なく答えるクシビの様子を見て、昔を思い出すソノカ。 「君は変わっていないのね……あの時から……」  懐かしいものだ。魔術ができなくて、人一倍練習をしていた時のことは今も覚えている。  失敗をしたときは、そんな顔をして落ち込んでいたものだ。  今では信じられないほど可愛らしかったのに……。 「驚きました。まさかこれほどの魔術を使えるとは思いませんでしたから」 「君には少し躊躇があったからね。私が先輩だからって手加減するから」 「………。」  そんな事まで読み取られていたとは思わず、クシビは黙り込む。  相変わららず、魔力を機敏に読みとるのがうまい人だ。  魔術の教えを請う生徒が多くいたのも納得できる。俺もその一人だ……。  正直、本気でやり合えば、今の自分でさえ負けるのではないかと感じてしまうほどだ。  本来、戦う為の魔術ではないのに……。これほどの力が……。  試合が決着すると、会場が沸いた。クシビとソノカの試合は、そこで終局を告げた。
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