第一章

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 ――もう嫌だ……。  必死に走り続ける。背後から追ってくる護衛達を振り切るために。  ――こんなのは……。  狭い路地の一角に身を隠すように走りこむ。暗く、薄暗い場所だ。だが、それでも背後から迫ってくる足音は止まなかった。 「いたぞ! こっちだ!」  居場所が他の護衛達に知られる。やはり、自分の足では遠くへ行くことはできないのだろうか……。  もうずっと……このまま檻の中で過ごさなければならないのだろうか……。 「助けてください! 追われているんです!」 「……?」  薄暗い通路を歩いていたクシビの前に、突如として現れた女性が口走る。目立たないような服装に、首下まで伸びた黒髪が印象的だった。顔立ちはアイグラスに隠されていてよくわからない。いかにも人目を避ける時のような格好だ。  こんな所に逃げ込んでくる人がいるとは――。 「いたぞ! こっちだ!」  男の声が響き、複数の人間が集団で向かってくる。 「お願いします! 助けてください!」  必死に頼み込む女性。 「………。」  クシビは、どうしようか考えると――とりあえず迷っている暇がないことだけはわかった。一先ず、この場を離れようと魔術を行使する。  姿を消し、さらに気配を消す。  そして女性を抱えると、そのまま立ち去ることにした。 「なんだ!? 消えたぞ!?」  驚いている男達を傍目に、クシビはその場を後にした。 「何だ? あの追っ手は……」  追手を撒くクシビだが、その様子は危険な術士という雰囲気でもなかった。 「あの人達は……酷い人達なんです」  抱えられた女性は、そのままうずくまるようにしていた。あの追手は服装が正規の人間の者のように整っていた。武装も見る限りは危険とは思えない。  そのまま、クシビは場所を移す。 「とりあえず、追手は撒いただろう」  人目のない通路に着くと、クシビは女性を下した。 「あ、あの……。ありがとうございました。私はユヒカと言います……」おずおずとそう名乗り出る女性。 「そうか。俺は……まあ、名乗るほどの者でもない」  自分の名前を口にするわけにもいかず、とりえあずそう言っておくクシビ。
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