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――もう嫌だ……。
必死に走り続ける。背後から追ってくる護衛達を振り切るために。
――こんなのは……。
狭い路地の一角に身を隠すように走りこむ。暗く、薄暗い場所だ。だが、それでも背後から迫ってくる足音は止まなかった。
「いたぞ! こっちだ!」
居場所が他の護衛達に知られる。やはり、自分の足では遠くへ行くことはできないのだろうか……。
もうずっと……このまま檻の中で過ごさなければならないのだろうか……。
「助けてください! 追われているんです!」
「……?」
薄暗い通路を歩いていたクシビの前に、突如として現れた女性が口走る。目立たないような服装に、首下まで伸びた黒髪が印象的だった。顔立ちはアイグラスに隠されていてよくわからない。いかにも人目を避ける時のような格好だ。
こんな所に逃げ込んでくる人がいるとは――。
「いたぞ! こっちだ!」
男の声が響き、複数の人間が集団で向かってくる。
「お願いします! 助けてください!」
必死に頼み込む女性。
「………。」
クシビは、どうしようか考えると――とりあえず迷っている暇がないことだけはわかった。一先ず、この場を離れようと魔術を行使する。
姿を消し、さらに気配を消す。
そして女性を抱えると、そのまま立ち去ることにした。
「なんだ!? 消えたぞ!?」
驚いている男達を傍目に、クシビはその場を後にした。
「何だ? あの追っ手は……」
追手を撒くクシビだが、その様子は危険な術士という雰囲気でもなかった。
「あの人達は……酷い人達なんです」
抱えられた女性は、そのままうずくまるようにしていた。あの追手は服装が正規の人間の者のように整っていた。武装も見る限りは危険とは思えない。
そのまま、クシビは場所を移す。
「とりあえず、追手は撒いただろう」
人目のない通路に着くと、クシビは女性を下した。
「あ、あの……。ありがとうございました。私はユヒカと言います……」おずおずとそう名乗り出る女性。
「そうか。俺は……まあ、名乗るほどの者でもない」
自分の名前を口にするわけにもいかず、とりえあずそう言っておくクシビ。
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