第一章

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「――。」  思わず苦笑を浮かべたくなるクシビ。相手の立場になって考えれば、おのずと狙いが見える。  クシビは一筋の魔力線を見つけると、そこへ逆流をさせるように魔力を流し込んだ。  バチリ、と地面から魔力が弾ける。側で見ていたユヒカが「きゃっ」と声を上げた。  おそらく、これで影を操っていた術士にもダメージがいったはずだ。 「影の供給魔力は絶てたか?」 「そのようですね」  予想が的中し、影の動きが止まった。逆探知とまではいかなかったが、おそらく相手は尻尾を巻いて逃げている頃だろう。やはり人物特定をされる事を極端に嫌っている。  どんな奴か顔を拝みたかったが……。 「君、もう影は襲って来ない」 「あ、ありがとうございます……。あなた強いんですね……」  腰を抜かせているのか、座ったまま口を開くユヒカ。 「強いと言うほどでもない。こうした事に慣れているだけだ」  魔術札を懐にしまうクシビ。とりあえず、手当の必要はないようだ。  それにしても先ほどの影……。命を狙っている時点で、ロクでもない奴だというのは察しがついたが……あんな隠れるようなやり方は……。 「なぜ追われていたんだ?」クシビがそう尋ねる。 「それは……」  口ごもるヒユカ。何か訳ありなのは目に見えてわかった。  無理に聞こうというつもりは無いが、命を狙われているという事は、相当な事情があるはずだ。 「お願いします。私を匿ってほしいんです! 今、命を狙われていて……」 「命を……?」  その言葉に、クシビは考える。とりえあずヒマリの隠れ家に行っても問題はないだろうが……。このままこの場所に留まる訳にもいかない。 「わかった。詳しい話はこちらで聞こう」 「は、はい……」  おずおずと頷く女性だが――。 「あら、ここにいたの? あなたへの緊急の手配があったから来てみれば……」  そこへ、やれやれと言わんばかりに気怠そうに腕を組んだ情報屋が現れた。 「あら、その人……」真っ先に目に留まったその人物を見て、情報屋は少し表情を変える。 「さっき助けを求められた。命を狙われている節があったから、とりあえずは追手を払っておいた」  説明するクシビだが、情報屋は信じられない物を見るような目を向けてくるだけだった。どこか馬鹿にされている気分になるクシビ。 「あなた、この人が誰か知っているの?」 「名前は聞いている。ユヒカだ」 「それは下の名前ね」  溜息を吐いて呆れる情報屋。その態度にクシビもムッとなる。 「この人はルノダ・ユヒカ。世界的に有名な歌姫で、歴とした一国のお姫様よ」  そう紹介する情報屋。隣で立っている女性は、不思議そうにこちらに顔を向けているだけだった。 「………。」  宣告されたその言葉に、クシビは押し黙るしかなかった。
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