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第二章
「なるほど、事情は把握した。とりあえず、詳しい事はお姫様に直接話を聞いてからじゃ。丁重に連れてくるのじゃぞ」
それでヒマリとの通話は途切れた。
「あの……私を匿ってくれるんですか……?」
「ああ。君を丁重に運ぶように言われた。とりあえず話はこちらの家で伺う。付いて来てくれ」
「は、はい……!」
安心しておずおずと尋ねてくるユヒカに、クシビはそう答えた。
最初は全く気付かなかった。身を隠すようにしていたし、そんな身なりから歌姫や王女の類だとはまるで連想できなかった。
まったく、こっちの世界は何があるのか分かったものじゃないな……。
クシビは、そのまま裏路地へと連れていく。見慣れた暗い道路だが、いくつもの結界が迷路のように折り重なっている。
「わあ……」
「………。」
まるで不思議の迷路に来たかのような表情のユヒカを横目にしながら進むクシビ。物怖じしている様子がない。こんな暗い道、普通の一般人なら不安になりそうなものだが……。
どこか平然としており、むしろその光景を楽しんでいるかのようだった。
「ここだ」
「ここが、あなたの家……?」
その外見を見て、ユヒカが不思議に尋ねる。
「いや、家という暖かな感じのする場所でもない」
「……?」
その言葉に違和感を覚えるユヒカ。暖かな場所では無いとはどういう意味だろう。
「……。」
ドアを開くと、それに続いてユヒカも家へと入っていく。緊張が胸を撃ち、その扉の奥へと足を進めた。
古い骨董屋を見て、ユヒカは不思議と声を上げていた。まるで魔法使いの家に来たような感覚だった。こんな所にお店があるなんて……。
「いらっしゃいませ。ルノダ・ユヒカ様。お待ちしておりました」
「わっ……」
洋風の格好をした使用人が頭を下げていたので、ユヒカは思わず驚く。こんな小さなお店に使用人がいるのだ。思った以上にしっかりとしている。
応じるようにユヒカも頭を下げる。
「奥の部屋でヒマリ様がお待ちです」
「………」
クシビも先を促すので、ユヒカはここからは自分一人で行くことになるのだと思った。
息をのんで、部屋の奥の扉を開けるユヒカ。暗い部屋の中、蝋燭だけが辺りを照らしていた。
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