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隠れ家の外へ出たクシビは、ヒマリとユヒカが話している間に他の用事を済ませておこうと試みる。とりあえず、あの様子だと話は長くなるだろう。
クシビは一先ず精霊院へと向かう事にする。あの事件の後始末も含めて、いろいろと話しておきたい事が山積みなのだ。
街を隠れるようにして移動し、いつものルートを辿って精霊院に到着すると、クシビは静かにその扉を開ける。
あれだけ手荒な真似をした後で申し訳ないが……。
「会長、すみません。」
「待っていたわ! クシビ君!」
そうして出迎えたのは、大勢の巫女達だった。なぜかとても喜んでいる様子だ。
「? えっと、会長はどこに……」
「巫女士長なら、こっちにいるわよ。今ちょうど配給食の支度をしているの」
クシビが口を開く間もなく、巫女達に腕を掴まれて連れて行かれる。
「あら、クシビ君。来たわね。待っていたわよ。今、配給食の支度をしているの。丁度いいから、あなたも手伝いなさい」
「お、俺がですか?」
出迎えたソノカが真っ先にそう告げてきて、クシビは戸惑うしかない。いったい何だろう。この歓迎ぶりは……まるで自分が持て成しをされているような錯覚に陥る。
「あの、急いでいるので、それより話が――」
そう思わず声を上げるクシビだが、巫女達は自分の背中を押してくる。
「いいから、いいから! クシビ君もせっかくだから食べていって。まずは、この街を救った英雄の歓迎をしないとね!」
「え、英雄……?」
巫女達がとんでもない事を口走る。まさか自分の歓迎をするために待っていたのだろうか。
「いいから、クシビくん。君も手伝いなさい。これは先輩からの命令よ。今日は君の歓迎の準備をと思っていたのよ。君は料理が上手かったものね」
「いや、そんな……」
会長に笑みを向けられるが、口ごもるクシビ。
歓迎されるはずが、何故か手伝う事になっている。
「そうそう! クシビ君のおかげでこの町が無事でいられたんだから!」
「クシビ君が居なかったら、私達もこの精霊院も無事じゃ済まなかったわ!」
「……!」
強引に連れて行かれるクシビ。
街を救ったなど大層な事をしたつもりもなかったが、まさかこんな出迎えをされるとは思ってもいなかった。
いくら魔物を倒したとは言え、違法術士の自分が英雄と呼ばれるとは……。
しかし、雰囲気に逆らえず、クシビは結局配給食の準備に取り掛かるのだった。
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