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光の差す方へ
僕は、混沌とした、漆黒の闇の中にいた。
自分が今、上下左右、前後ろ、どこを向いているのかさえ、分からない。
平衡感覚もなく、重力も感じない。立っているのか、座っているのか、あるいは、逆さまになっているのかも、分からない。
宇宙空間のようなところを、ただただ、プカプカと浮き、さまよい、漂っているのかも知れなかった。
そんなことを思っていると、何となく、右のホッペのあたりが痒くなり、右手で掻こうとしたら、空振りばかり。
えっ?
顔がない?
僕は慌てて、両手で自分の身体を、頭のてっぺんから、足の先まで、確認しようと触ってみたが、触れない……。
えっ?
身体がない?
自分の両手を、ガチッと握り合おうにも、合掌しようにも、感触がない!
えっ?
意識だけ?
もしかして、僕が今、『自分』と思っている自分は、意識だけになっているのか?
もしかして、『魂』だけになっているのか?
えっ?
もしかして、僕って、もう……、死んじゃってるの?
疑問が疑問を呼び、頭の中を、ひたすら迷走する疑問が、次から次へと、ただ駆け巡る!
そんな迷走を繰り返しながら、どれ程の時間が経過しているんだろう?
時間の感覚すら分からない。1分、2分……とか、何時間とか何日とか、そんなレベルの時間の経過じゃないのかも知れない。もしかしたら、僕は、無意識に、何千年、何万年……、何億光年とかいうレベルの、果てしない時間経過の中にいるのかも知れない。
そんな訳の分からない自分の状態の中、チラッチラッと、小さい、ほんとに、小さ~い白い点のようなものが見えた。
混沌とした、漆黒の闇の中だけに、そんな僅かな白い点でさえ、存在感を示す。何か、自分以外の存在に、ものすごく久しぶりに出会えて、ホッとした、と言った感じだ。
ホコリが舞っているのか?
いや、違う。
白じゃなく、何か光ってるぞ。何か、光源体のようなものが、浮遊しているのか、チラッチラッと見える。
すると、その光源体は、時間の経過と共に、小さいなりにも、少しずつ大きくなって来た。
いや、違う。
光源体じゃないぞ。
小さな穴から、光が差し込んでいるんだ!
その穴がチラッチラッと見えながら、徐々に僕は、その穴からの光線に、包まれて行っているようだ。
いや、違う。
僕は、上下左右、前後ろと、平衡感覚・方向感覚のないまま、ただグルグルと回転しながら、その光の差す穴へ、一直線に吸い込まれて行ってるんだ!
どんどん光が強くなって来た!
そして、光の穴がいよいよ迫って来たときだった!
光の穴の入口に、チラッと表札らしきものが見えた!
『M78星雲……』
と、見えた気がした!
えっ?!
M78星雲と言えば、ウルトラの星じゃないか! 確かに、昔、子供の頃にテレビで観た、ウルトラマンの歌詞の中に、♪……光の国から、僕らのために……♪と、歌っていたから、この入口の向こうは、間違いなく光の国。すなわち、M78星雲・ウルトラの星なんだッ!
……って思い、回転しながら吸い込まれて行っている僕は、吸い込まれる瞬間、再度、一瞬だけ見えるであろう表札を見逃すまいと、目をギッと凝らした。すると、表札の文字が、ハッキリと見えた!
『M78星雲……、的な星雲』
と、書かれていたのだ!
なので、M78星雲ではないけれど、『M78星雲……、的な星雲』ということだから、恐らく、所謂、ジェネリック的な星雲なんだな~と理解した。
フランクミュラーじゃなくて、フランク三浦。
松田聖子じゃなくて、まねだ聖子。
……みたいな。
まぁ、何でもいいや。成るようにしか成らんのだから、光に導かれるまま、光に吸い込まれるまま、大いなるものに、身を委ねよう……。
ー シュポーーーンッッッ!!! ー
光の穴を通過すると、僕は、白い霧に包まれた。
五里霧中とは、こういうことだ。
しかし、しばらくすると、少しずつ、霧が晴れて来た。
あっ!
子供の頃に観たことがある、ウルトラの星的な街並みが見えて来た!
あっ!
身体に重力を感じる!
僕は空を飛んでいた。両腕を前に出し、所謂、ウルトラマンが空を飛ぶ姿勢で、僕は空を飛んでいたのだ!
目の前に見える僕の両腕は、ウルトラマン的な両腕になっていた!
どうやら、僕は生まれ変わったんだな~。M78星雲じゃないから、ウルトラマンじゃないけれど、この『M78星雲……、的な星雲』で、ウルトラマン的な『ジェネリック・ウルトラマン』もしくは『ウルトラマン・ジェネリック』等と呼ばれる星人になったんだな~。
地球人の中にもいたけれど、やっぱり、この星人の中にも、オッパイ星人は、紛れているのだろうか?
そんなこんなを思いながら、僕は空を飛び、湖の畔に着地した。
とりあえず、今の自分の姿を見てみたくて、シ~ン……、と静まり返った湖の、波一つ立っていない湖面に映る自分を確認してみた。
僕は、ウルトラマンになっていた!
……じゃなくて、本当に、ウルトラマン的な星人になっていたのだ!
こんなことってあるんだな~。背中にはチャックが付いていないから、着ぐるみじゃないんだな~。
しみじみと、湖面に映るウルトラマン的な星人になった自分の姿を眺めていると、突然、湖面に、波が、ザワザワザワザワ~ッと、立ち始めた!
なぬっ?!
生まれ変わって早々、怪獣の出現かッ?!
僕は、若干、湖畔から離れ、戦闘モードで構えた。
……けれど、僕は、そもそも怪獣と戦えるのか? 地球人時代にも、格闘技や武道の心得すらないのだぞ!
地球人時代にテレビで観た、ウルトラマンや仮面ライダー、ヒーロー戦隊等が戦っている、予定調和的な映像が、知識として、頭にあるだけなんだぞ!
すると、湖の底から現れたのは、怪獣ではなく、女神様だった。「お前が今、湖に落としたのは、金の斧か? それとも、銀の斧か?」と、聴かれそうな雰囲気だった。
が、両手に持っておられたのは、斧ではなく、小さいものだった。
「お前が今、湖に落としたのは、オノ・ヨーコのCDか? それとも、小野ヤスシが司会を務める『スターどっきりマル秘報告』のDVDか?」
と聞かれ、
「どちらも落としてはおりません! それに、そんな昭和な話、昭和マニアでもない私には分かりません!」
と、キッパリ! ハッキリ! 言ってやった。すると、女神様は、世代間ギャップに、若干、若さを強調された悔しさもあいまったのか、
「これはこれは、そなたに見せる品物を間違えた。許せ!」
と、あくまでも、上から目線なモノ言いで、女神様の後ろに控えていた官僚らしき者に、そのCDとDVDを手渡し、その代わりに、その者から、一冊の本を受け取っていた。
「では、改めて……、そなたに問う」
「はい」
「遣隋使に行ったのは、小野妹子か? 小野小町か? おのののかか? さぁ、答えてみよ、この若造よッ! 答えられるものなら、答えてみよ~ッッッ!!!」
女神様は、先程、僕に若さを強調されたのが、よっぽど悔しかったのか、「こんな難しいクイズに答えられるはずもなかろう、この若造めッ!」と、言わんばかりのドヤ顔で、クイズをぶつけて来た。
が、即答で、
「小野妹子!」
と、答えたもんだから、驚きを隠せず、
「そ、そ、そなた……、天才か!」
と、腰を抜かされたので、逆に、この程度の正解で天才扱いされて、腰を抜かされるなんてと、こっちが腰を抜かしそうになった。
女神様は、僕の天才ぶりに、いたく感動され、僕の、この星での名前を、『ウルトラマン・ジェネリック・宇治原』と、命名して下さり、永住権をお与え下さった。
そして、この星で、クイズタレントとしての仕事もお与え下さり、安定した知名度と地位で、安定した収入のもと、安定した生活を送らせて頂いたのだった。
めでたし、めでたし。
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