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佐野はため息を吐きながら会社に戻って来た。
日はすっかり落ちて、夏なのに辺りはどっぷりと暗くなっていた。
肩を落として、駅前に出てタクシーを拾おうとすると、遥か遠くから何やら声が聞こえた。
「……?」
顔を一旦上げて、聞き間違いかとタクシーに足を入れる。
「いたぁぁぁぁぁぁ!!都会で会えるって本当だったぁ!!」
残った片足にがっしりとしがみ付かれた。
「ど…どなた……………あれ?あなたは…。」
怖々、足を見るとしがみ付くその人物に見覚えがあった。
「ど…どうして此処にいるのですか!?」
思わず大きな声を出した。
ボロボロの格好で小さな黒いリュックを背負い、汚れた子供…。
「銀十郎本舗、もしくはあのネズミの人の所に連れて行って下さい。絶対…離しません!いろんな人に聞いても逃げられてしまうので…やっと見つけた知ってる人です!!」
「ネズミの人…とはもしや社長の事ですか?」
「あぁ、それです!その社長です!」
「あ、足を放して頂けます?」
「嫌です!! 随分、捜したんです!みんな逃げちゃうし!お腹も空いています!逃げられたくありません!」
「いつから……。」
「此処には昨日からです!」
「………ここって……。」
佐野は言葉を失った。
取り敢えず、放置する訳にも行かないので、タクシーに乗せて連れて行く事にはしたが、汚れているので椅子に座らず、下に小さくなっていた。
「……上に座って下さい。」
「白いじゃないですか!汚れます!3日位、お風呂にも入ってないんで…。」
「………普通に飛行機でも1時間、新幹線でも3時間もあれば……。」
「まぁ、いろいろ事情はあるんです。慣れてないとも言えます!ご迷惑をお掛けします。」
佐野はこの少年がそれほど、初対面から嫌ではなかった。
印象は柔らかく、時折見せる子供らしい笑顔は可愛らしく、今時の子なのに素直でいい子だと思っていた。
(田舎の子はみんなこんな風に純朴なのかな?)
そんな事を考えて、本社に連れて戻った。
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