答え合わせ

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「志貴…ごめんね…」 ぱっと目を開けたら、母さんの目から涙が一筋零れ落ちてた。昔は大人って泣かないものだと思ってた。それくらい、母さんが泣いてるとことは見たことがなかった。 「何、謝ってるの…」 「親から勘当されても、奥様が出て行くくらい、あっちの家庭にも、不愉快な思いさせても、結局、私は真壁と別れられなかった。この人が亡くなった時、お葬式に真壁が来てね、こう言ったの。『やっぱり君には僕しかいない、って神様が言ってるんじゃないの?』って」 「――最低だろう、その発言」 自分が言われたわけじゃないのに、めちゃくちゃ腹が立つ。真壁って人は、きっと自分に逆らう人が許せないんだ。 多分、俺にあんなことしたのも――生意気なクソガキを黙らせてやろうという思いがあったんだと思う。 「最低よね。嫌な男だと思った。だけど、罰が当たったと思ったの。私が近づいたから、康貴さんは、あんな死に方になったんじゃないか、って。 あんたを抱えて、頼る人もいなくて…寂しさからいろんな男と付き合った」 「うん…知ってる…」 「お金とかも時々貰ってた」 「え」 「最低な母親よね」 「…生きるためだったら、しょうがないんじゃないの…」 子どもの頃は、母さんは強くてしっかりしてて頑張り屋で、完璧に近い人間だと思ってた。だけど、今、大人になってみると、脆くて弱いくせに、頑固。そして男に支えられてないとダメな女なんだな、って。今、こうして話を聞いていても、間違った選択肢ばっかり選んでるように見える。 結局、奥さんが亡くなったのがきっかけなんだろうけど、真壁とより戻してるわけだし。割れ鍋に綴じ蓋としか思えない。 けど。母さんなりに必死でもがいて、掴んだものを、俺がどうこうは言えない。 「あと2年で真壁は出所してくるんでしょ? どうするの? そしたら」 「ここで暮らせばいいんじゃない? 禎三さんが嫌だって言ったら、また考える」 「…別れないんだ…」 ちょっと驚いてしまう。
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