10 新しい一歩

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支度をして、一緒に家を出ることにした。玄関で靴まで履いたのに、波岡はなかなかアパートの戸を開けようとしない。 「手を繋いで一緒に行きたいけど…人の目もあるし、やめておくか」 「当たり前じゃん。やだよ、手つなぎ出勤なんて」 見せつけたいタイプじゃないし、人前でいちゃいちゃとか無理、本当無理。 「葉月が冷たい」 「冷たくないっての。ほら、行こうよ。遅刻しちゃう」 私は波岡の背中を押す。 「お前、本当サバサバし過ぎ」 「波岡、意外とくっつきたいタイプ?」 「ほら、まだ波岡言ってるし」 「……?」 意味がわからなくて首を傾げる。 「志貴、って呼んでほしいんだけど」 「げ」 「いやいやいや、その反応おかしくね?」 「無理。あ、私、行かなきゃ」 波岡のお願いは軽くいなして、私は玄関のドアノブに手を掛けた。事務社員は着替えがある分、男性社員より早く着かないと。 「待てって」 私の手の上に波岡が手を重ねる。 「な…に…」 上を向いて抗議しようとしたところを、ふいにキスされた。 「週末、また来ていい?」 軽く触れた唇を遠ざけながら、波岡がそう囁く。 さっきまであんなぐだぐだな会話してたのに。いきなりさっと核心ついてくる。こんなの嫌とかダメとか言いにくい。かぁっと火照った顔を隠すように頷いた。 「じゃ、俺、コンビニ寄ってから行く」 波岡は私を残して、先にドアの外に飛び出した。何もなかったような顔をして。 緩みそうになる顔を必死に引き締めながら、戸締りをして、家を出た。いつもの通勤の道。けど、途中のコンビニのガラス窓越しに、波岡が見えた。こっちには気づかないで、ミントタブレットを物色してる背中が可愛く見える。 小学校の頃、波岡の姿を見ただけで、ちょっと嬉しかったのを思い出す。 更衣室についたのは、いつもより5分くらい遅くて、そのせいか相馬さんも宮内さんもいなかった。その代わりに、芽衣子さんが…いた。
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