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「…やってもいいけど」
私はそう言ってしまっていた。惚れた弱み怖い。あ、惚れてた、か。
私が言うと、波岡はみるみるうちに顔を緩ませて、私の両手をぎゅって握った。
「やりぃ。じゃあ。1カ月後からお願い」
「3カ月?」
「だって、仕事入ったばっかりで、すぐに付き合うとか、おかしいでしょ」
めちゃくちゃ無茶なお願いしてるのに、変なとこだけリアリティにこだわる波岡。それだけ本気なんだろう。
「俺からコクったことにしておけばいいかな。小学校時代の友人に再会して、初恋を思いだした――みたいな」
「大嘘じゃん。誰が初恋だよ」
ばか、って言って人のこと振ったの誰だよ。
「設定だよ、設定」
波岡はそう言って、楽しそうに笑う。
偽りの彼女。偽りの恋。
どうしてそんなものが必要だったのか、そんなことは想像さえしなくて、この時はただ、波岡の熱意と小銭に負けて、波岡のばかばかしいお願いを聞き入れてしまっていた。
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