プロローグ

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「葉月―、サッカーやる?」 いつもみたいに、サッカーボールを片手に、波岡が声を掛けてくる。周りには、波岡の友達の男の子たちが、ちょっとにやにやしながら、私を見てる。 なんだろう、いつもと違う。ちょっと嫌な感じ。 苦手なシイタケに大苦戦して、まだ給食を食べ終わってなかった私は、「あー、ごめん。今日はやめておく」と波岡たちを追い返す。 「良かったの?」 前で給食を食べてた南ちゃんが、牛乳パックを綺麗に畳みながら、私に聞いてくる。南ちゃんも、からかうような笑みを私に向けてる。 「え、何。今日、みんな変じゃない?」 思ったことは全部言わないと気が済まない私は、南ちゃんに直接聞く。聞かないでもやもやしてるのなんて嫌だもん。 「ここで言っていいの?」 すぐ隣には、小食で給食を食べるのが遅い松本くんが、もそもそと食パンを齧ってるし、その向かいでは、食べ終わったらしい田中が、配膳を片づけるタイミングを計って、教室をきょろきょろしてる。 多分、南ちゃんと私の会話に、この二人は入ってこないだろうけれど、内容は聞こえる。そんな環境。南ちゃんは意味深に笑ったままで、身を乗り出して、私だけに聞こえるようなひそひそ声で言う。 「あとで教えてあげる」 そう言って、昼休みの女子トイレで、南ちゃんが教えてくれたのは、波岡が私のことを好きなんだ、っていう噂だった。 「え」 そんなあ~、と否定しつつ、ちょっと心臓がどきどきした。噂だから当てにならないと思いつつ、本当だったらいいなと願ってしまう。
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