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真新しいチャイルドシートに座ってる間も、葉月に抱っこされていた間も、瑞月はすやすやと気持ちよさそうに眠っていたのに、俺が自宅に用意したベビーベッドに寝かせた途端に泣き出した。
「ありゃ、起きちゃった」
「どうしよ、葉月」
「多分、寝かせる時乱暴だったんじゃないの? そっと優しくしてやらない」
「優しくしたよ! 俺」
葉月は「しょうがないパパだね~」なんて言いながら、瑞月を抱き上げる。瑞月は安心したのか、すぐに泣き止んで、再び目を閉じた。
葉月はすっかり母親の顔をしてて、俺はすっかり出遅れた気分。
「あれ、なんか志貴悔しそう」
「ずりーだろ、お前は入院中ずっと瑞月と一緒にいて、そりゃ懐かれるだろうけど、瑞月にとっては俺はまだ他人も同然だもんな」
「そうだな、2回くらい様子見に来てくれたけど、その時ずっと寝てたもんな、瑞月」
「そうなんだよ!」
俺は瑞月を抱っこしたかったのに、寝てばっかりいるから、全然触れられなかった。仕事終わってからの面会時間は、余りに少なかったし。
「これからいくらでも時間あるから平気だって、ね、パパ」
葉月が俺をパパだと笑いかけると、瑞月はきょとんとした顔で、俺を見た。
「じゃあこれからもよろしく、ママ」
「うわ、志貴にママ言われるの背中こそばゆくなるな」
「俺の気持ちわかったか」
「おう。――まさか、志貴をパパって呼ぶ日が来るなんて思いもしなかったからなあ」
「そんなの俺もだよ」
目を見合わせて、くすっと笑ってから、お互い自然に唇を重ねた。
初めて好きになった女の子。一度は手放して、諦めた初恋。今度は絶対手放さない。そんな気持ちを込めて、何度も葉月に言ってるセリフをもう一度言った。
「――愛してる」
きっとこのセリフは、これからもこれまでも、たった一人にしか使わない。そんな気持ちを込めて。
(完)
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