6914人が本棚に入れています
本棚に追加
真壁先生、って言ってたから、院長の息子さん…だとしたら、波岡が言ってた話とも辻褄が合う。
「水田さん、だっけ。志貴の小学校時代の同級生って、偶然?」
「偶然です!」
「そうなんだ。じゃあ。頑張ってよ。うちの病院忙しいから、未経験の人には大変だと思うけど」
「水田さんの履歴書みたんですか?」
「院長室にあったからな。目くらい通すよ」
大きくあくびを一つしながら、真壁先生は波岡の質問に答える。
「夜勤明け…でしたっけ」
「ああ。帰って寝るよ」
「お疲れ様です」
波岡がきっちりお辞儀をして、真壁先生を見送るから、私もそれに倣った。
「わかったと思うけど、今のが外科の真壁先生。俺の義理の兄貴」
真壁先生の姿が廊下の角に消えてから、波岡は私に説明してくれた。正直言われなくても、想像がついてたから、短く頷くだけにする。
「水田」
「は、はいっ」
「院長にも会わせたいから来て」
「えっ」
院長にも対面?
「驚くこと?」
「だって会社で言えば社長でしょ?」
そんな一日目のド新人がいきなり会えるとか思ってない。
「雇用主なんだから当然じゃない?」
一旦エレベーターに乗り込んで、今度は4階で降りた。
「院長室とか、あと職員の食堂とか、そういうのは全部4階にある」
「あ、やっぱり4階って一般病棟にはしないの?」
4→死につながる…みたいな。
「今はあまり気にしないところも多いですが、うちは昔ながらのつくりなので、そのまんま。一般の方が使うエレベーターには4階の表示はありません」
「そうなんだ。幻のフロアだ」
普通の人は立ち入れない場所と聞くと、ちょっとテンション上がってワクワクしてしまう。
「幻って…お前」
大げさな言い方だったのか、波岡はこらえきれないといった風に笑う。
「あー、ほんとお前といるとペース狂うわ」
「…無理して猫かぶってるからじゃん?」
「院長室に入るので、無駄口はおしまいにしてください、水田さん」
ドアのノブに手を掛けて、水田は軽く私に脅しをかける。慌てて私が口を閉じたのを、面白そうに眺めてから、波岡は扉をノックした。
「どうぞ」
と落ち着いた声が中から聞こえて、私と水岡は中に入った。
最初のコメントを投稿しよう!