2 初出勤は気苦労の連続

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真壁先生、って言ってたから、院長の息子さん…だとしたら、波岡が言ってた話とも辻褄が合う。 「水田さん、だっけ。志貴の小学校時代の同級生って、偶然?」 「偶然です!」 「そうなんだ。じゃあ。頑張ってよ。うちの病院忙しいから、未経験の人には大変だと思うけど」 「水田さんの履歴書みたんですか?」 「院長室にあったからな。目くらい通すよ」 大きくあくびを一つしながら、真壁先生は波岡の質問に答える。 「夜勤明け…でしたっけ」 「ああ。帰って寝るよ」 「お疲れ様です」 波岡がきっちりお辞儀をして、真壁先生を見送るから、私もそれに倣った。 「わかったと思うけど、今のが外科の真壁先生。俺の義理の兄貴」 真壁先生の姿が廊下の角に消えてから、波岡は私に説明してくれた。正直言われなくても、想像がついてたから、短く頷くだけにする。 「水田」 「は、はいっ」 「院長にも会わせたいから来て」 「えっ」 院長にも対面? 「驚くこと?」 「だって会社で言えば社長でしょ?」 そんな一日目のド新人がいきなり会えるとか思ってない。 「雇用主なんだから当然じゃない?」 一旦エレベーターに乗り込んで、今度は4階で降りた。 「院長室とか、あと職員の食堂とか、そういうのは全部4階にある」 「あ、やっぱり4階って一般病棟にはしないの?」 4→死につながる…みたいな。 「今はあまり気にしないところも多いですが、うちは昔ながらのつくりなので、そのまんま。一般の方が使うエレベーターには4階の表示はありません」 「そうなんだ。幻のフロアだ」 普通の人は立ち入れない場所と聞くと、ちょっとテンション上がってワクワクしてしまう。 「幻って…お前」 大げさな言い方だったのか、波岡はこらえきれないといった風に笑う。 「あー、ほんとお前といるとペース狂うわ」 「…無理して猫かぶってるからじゃん?」 「院長室に入るので、無駄口はおしまいにしてください、水田さん」 ドアのノブに手を掛けて、水田は軽く私に脅しをかける。慌てて私が口を閉じたのを、面白そうに眺めてから、波岡は扉をノックした。 「どうぞ」 と落ち着いた声が中から聞こえて、私と水岡は中に入った。
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