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3 ニセ彼女始動
病院で働き始めて、2週間が経った頃、波岡に一人の女性に会ってほしいと頼まれた。
「それって…あれだよね。例の」
電話口で私は探りを入れる。波岡から個人的に頼まれている報酬1万円のアルバイト。
「そう、例のやつ」
うわ、ついに来たか…と、電話口で生唾を飲み込んだ。
「1カ月してから…って言われなかったっけ」
「そうなんだけど、ちょっとこっちの都合で予定が早まった」
「あんたの都合って?」
「いや、実はさあ…」
と波岡が語りだした内容は、簡単に了解サインを出せない、かなりハードなものだった。
「えー、無理無理無理無理。絶対無理だよ」
依頼内容を聞いた瞬間、即行で断る。
「無理は承知で頼む!」
「ほかの人に頼みなよ。そ、相馬さんとかだったら喜んでニセ彼女役引き受けてくれそう」
お金はまだもらってないし、契約破棄しても問題ない、はず。
「ばか、あの子だったら、絶対ニセにならねえよ」
「あ…」
知ってるんだ。向けられてる好意は十二分に知ってて、敢えてのスルーなんだ。モテる男は言うことが違う。
「頼むよ、葉月。お前しか頼れるのいないんだ」
突然、昔みたいに名前で呼ばれて、心臓が跳ねた。
こういう時に使ってくるの、ずるい。
「…つったって…うまくやれる自信ないんだけど」
「大丈夫だって」
不安要素しかない私に、波岡は自信たっぷりに説得する。どこから来るんだよ、その楽観的観測。
結局波岡の執拗な説得に折れて、私は次の週の日曜日、波岡の彼女として、真壁院長先生の家にご挨拶に行くことになった。
その席には、ご多聞に漏れず、波岡に執心の副院長のお嬢様がいるって筋書。
うーわー、胃が痛くなりそう…。
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