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日曜日は見上げたら目が痛くなるくらいの快晴だった。こんないい天気の日に何が悲しくて、偽物彼女なんて演じないといけないのか…。波岡のばか。
他に予定があったわけでもないのに、つい波岡への愚痴をこぼしてしまう。
「おう、いいじゃん」
待ち合わせ場所に現れた私を見るなり、波岡はそう言って、満足げに笑った。
黒のショート丈のジャケットに、白いプリーツのスカート。3センチヒールのサーモンピンクのパンプスまで、あんたがセットで買ってくれたんじゃないか。
突如憶えのない宅急便が届いて、こっちは詐欺かと思って焦ったって言うのに、送り主を確認してから、電話したら
「最初に言ったら、水田、遠慮して受け取らないでしょ? それ、日曜に着てきて」って。有無を言わせない強引なやり方、本当こいつらしい。
「…私の趣味じゃないんだけど、あんたの好み?」
「いや、コンセプトに合わせただけ」
「あっそ…」
ま、いいけど。モノはよさそうだから、フリマサイトで売ってやる。
「にしてもサイズよく…」
「事務の制服、注文したの俺だからね」
つくづく職権をいいように乱用する男だな。
「さて、と」
波岡はすっと私の前に手を差し伸べた。
「行きますか」
「え、繋ぐの? 今から?」
「今から、葉月は俺の彼女。――小学生時代、お互い淡い思いを抱いてたけど、告白する勇気が出ないまんま別れて、15年後に劇的な再会――からのお付き合い」
「…そんなうすら寒い設定、今時少女漫画でもないない」
「ま、真実からほど遠い、って程でもないからいいじゃん」
「…そうかなあ」
何処がお互いだよ、何処が。思いっきり振ったくせに。
けどしょうがない。雇用主の命令には逆らえない。私は、仕方なく波岡の手に、自分の手を載せた。
おっきな手は、私の手をすっぽり包み込んでしまう。やばい、手汗かきそうなくらい、緊張してきた。
「志貴――って呼べる?」
「無理っ」
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