3 ニセ彼女始動

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「志貴のコイバナも気になるけれど、とりあえず乾杯にしようか」 院長の一言で、みんなそれぞれ席につく。私は当然波岡の隣だったんだけど、その正面には芽衣子さんがいる。 座るとき、目が合うと、芽衣子さんはにこにこ私に笑いかけてきた。 乾杯の後の話題も、もっぱら波岡の私と波岡だった。 小学校の時のクラスメートでいたずら友達。お互い、好意は寄せあっていたけれど、告白しないまんま、波岡が転校して別れてしまって…という、波岡が自ら作り出した設定を、波岡はなんの衒いもなく語ってて、驚いたことに芽衣子さんは、それを興味深そうに聞いていた。 時には私に更に深く突っ込んでくる。 「志貴さんは忘れられなかったって言ってましたけど、葉月さんもですか?」なんて。 答えにくいし、何より、私は偽物の彼女なわけで、それも、こんな美人で、私よりよっぽど波岡にふさわしいんじゃないか、って思えちゃう人の前で、劣等感と罪悪感が半端ない。 ――波岡は何も感じないの? 訴えかける視線を送っても、波岡は平然と嘘の惚気話をしてるだけ。 お酒飲み放題だし、手作りのローストビーフもパエリアも、おいしいのに、全然食べた気がしない。 「私、ちょっと飲みすぎたかも…」 とお手洗いを借りることにして、席を離れた。 玄関に入って、右ね。と波岡が教えてくれたものの、なんせ広い家だから、右に曲がっても、扉がいくつもあった。 え、どれ? うろうろしてたら、前方不注意でふいに誰かにぶつかった。 「――って」 私のおでこを直撃されたその人は、苦々し気な声をあげる。その声に嫌な予感を覚えつつ、恐る恐る顔をあげた。 「あんた――」 向こうは向こうで、驚いた顔でこっちを見たけど、私はもっと嫌そうな顔をしてたかもしれない。こんなところで遭遇したくない人、№1の真壁先生が、目の前に立っていた。 「す、すみませんでした」 慌てて逃げようとしたその腕を、ぐいって掴まれる。 「待ってよ」 「…なんですか?」 この人が私に用なんてありそうにないのに。 「あんたさ――本当に志貴の彼女?」 強引に引き留められて、振り返った私に、真壁先生はニヤニヤしながら、鋭い質問をぶつけてきた。
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