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私は芽衣子さんに引っ張られるように中庭の外れに来た。くすんだ緑色の木が壁の代わりをなすように、一面を覆っている。
「葉月さん、この木なんだかお分かりになる?」
「え」
名前に反して、草木のことにはとんと疎い私。単に八月生まれだから、葉月って名前なだけで、両親も園芸大好きってわけじゃない。
首を傾げると、芽衣子さんはにっこり笑って答えた。
「金木犀。今はもう散っちゃったけど、毎年オレンジの鮮やかな花が咲くの。私、それを見に来るの楽しみで」
無邪気に言うけど、つまり、それだけこの家にも詳しいし、波岡との絆も深いんだと、言われてるように思えるのは私の穿ちすぎた意見だろうか…。
今日いろいろありすぎて、人を素直に信じられなくなってる。早く帰りたい。その前に波岡に言わなきゃいけないことがあるけど。
「金木犀の花言葉ご存じ?」
「いえ…」
いやだから、私は花言葉に詳しい女子力高めの女じゃないんです、お嬢様。
「真実。高貴な人、謙虚――あとね、こんなのもあるの――初恋」
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