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「な…にそれ」
結婚はともかく、恋愛しないって意味がわからない。そんな人いる?
波岡には忘れられない人がいるから?
「なんで?」
「なんで、なんでってお前、本当それ好きだな。子どもかよ」
「あんたは…大人ぶってカッコつけてるつもり? 全然魅力的じゃない。子どもの頃のあんたのが100倍かっこよかった」
「お前の初恋だもんな」
私をからかってから、波岡はすっと真顔になった。焦点は私に合っているのに、私を通り過ぎて、どこか遠くのものを見ているような視線で、何を言い出すのかと思ったら、突然、とんでもない爆弾投げてきた。
「俺もあの頃お前のこと好きだった」
「え」
まさに衝撃の告白、だ。何それ何それ。
「だって、あんた、私がコクった時、はっきり言ったじゃん。お前のこと、そういう風に見たことないって」
「…明日からいなくなるのに、ノー天気に俺も好きだ、とか言えっかよ」
すみませんねえ。明日からいなくなる男に、ノー天気に好きだとか言って。
だけど、波岡がいなくなる。切羽詰まった中だから言えた言葉で、きっとそうじゃなかったら言えなかった。
「今更、俺の初恋も私でした、なんて言われたって困る。結局あんたに度胸がなかっただけじゃない」
「おまえ、本当、手厳しいな、今の俺に」
「初恋の男が、こんなヘタレになってたら、そりゃがっかりだよ。見てくれだけじゃん」
この際だから、徹底的に辛辣に言ってやる。私にはそれくらいの権利、あるよね。
「お前は変わってなくて、羨ましいし眩しいよ。…俺たち、15年前に戻って、もう一度やり直せたらいいのにな」
波岡を好きだったのは、15年前の私で、今の私じゃない。
今の私は、単に波岡のニセの彼女、ってだけ。
それなのに、どうしてこんなに波岡の一言一言に、感情が揺さぶられるんだろう。
オレンジ色の夕日は眩し過ぎて、照らし出された波岡の表情はよく見えなかった。
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