3 ニセ彼女始動

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「な…にそれ」 結婚はともかく、恋愛しないって意味がわからない。そんな人いる? 波岡には忘れられない人がいるから? 「なんで?」 「なんで、なんでってお前、本当それ好きだな。子どもかよ」 「あんたは…大人ぶってカッコつけてるつもり? 全然魅力的じゃない。子どもの頃のあんたのが100倍かっこよかった」 「お前の初恋だもんな」 私をからかってから、波岡はすっと真顔になった。焦点は私に合っているのに、私を通り過ぎて、どこか遠くのものを見ているような視線で、何を言い出すのかと思ったら、突然、とんでもない爆弾投げてきた。 「俺もあの頃お前のこと好きだった」 「え」 まさに衝撃の告白、だ。何それ何それ。 「だって、あんた、私がコクった時、はっきり言ったじゃん。お前のこと、そういう風に見たことないって」 「…明日からいなくなるのに、ノー天気に俺も好きだ、とか言えっかよ」 すみませんねえ。明日からいなくなる男に、ノー天気に好きだとか言って。 だけど、波岡がいなくなる。切羽詰まった中だから言えた言葉で、きっとそうじゃなかったら言えなかった。 「今更、俺の初恋も私でした、なんて言われたって困る。結局あんたに度胸がなかっただけじゃない」 「おまえ、本当、手厳しいな、今の俺に」 「初恋の男が、こんなヘタレになってたら、そりゃがっかりだよ。見てくれだけじゃん」 この際だから、徹底的に辛辣に言ってやる。私にはそれくらいの権利、あるよね。 「お前は変わってなくて、羨ましいし眩しいよ。…俺たち、15年前に戻って、もう一度やり直せたらいいのにな」 波岡を好きだったのは、15年前の私で、今の私じゃない。 今の私は、単に波岡のニセの彼女、ってだけ。 それなのに、どうしてこんなに波岡の一言一言に、感情が揺さぶられるんだろう。 オレンジ色の夕日は眩し過ぎて、照らし出された波岡の表情はよく見えなかった。
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