6924人が本棚に入れています
本棚に追加
この間、院長の家にお邪魔して以来、私と波岡が付き合ってる…っていう話は、瞬く間に病院内に広まってた。
芽衣子さんにも、偶然病棟の中で会ってしまった。同じ病棟の小児科医だったって、全く知らなかったから、「あら、葉月ちゃん」って声を掛けられて、心臓止まりそうになった。
芽衣子さんは波岡が、波岡は芽衣子さんが話してたと思ってた、って言ってたけど、そういうことはちゃんと知らせてほしい…。
もともと私にそっけなかった相馬さんは、更に態度が冷たくなった。
「幼馴染だからって後から割り込んできたくせにずるい」
相馬さんが、更衣室で宮内さんに文句を言ってるところに、たまたま入っていってしまった。
名前こそ出してなかったけど、私と波岡の話題なのは、明白で、相馬さんは「私、諦めませんから」と威勢のいい啖呵切って、さっさと着替えて出て行ってしまう。
「…若いっていいなあ…」
相馬さんの後ろ姿を見送って、宮内さんは茶化すように呟いた。
「すみません」
「水田さんが謝ること?」
「入って間もないのに、仕事を覚えるより早くこんな…」
それは昼間、黒岩さんにも釘を刺されたことだった。
「恋愛もいいけど、仕事はきっちりやってね」
波岡はちゃんと実績も実力もある。だから、面と向かって彼に何か言う人は少ないんだろう。大体こういうのの矛先は、言いやすい方に向けられるから。
「あはは、水田さん、やるなあ、とは思ったけど。恋愛なんてしょうがないっしょ。転がるときは転がるし、動かないときは何年待ったって、1ミリだって動かない」
「…そうですけど…」
「ねえ、すぐに帰らないといけない人?」
「いえ。一人暮らしですし、急ぐ理由はないです」
「じゃあ、ちょっと付き合ってよ」
宮内さんは病院近くの食堂に私を引っ張ってった。
最初のコメントを投稿しよう!