4 走って笑って

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「…え、いいの?」 頭からユニフォームを引っ張り降ろして、手に握りしめる。周りにもチームメイトの人が集まって、にこにこしてくれてる。 「せっかくだから見てみたいねえ。志貴の初恋の相手の実力」 山崎さんにもにやにやしながら言われる。 「え、それは…」 波岡が「着替えて来いよ」って、背中押してくるから、とりあえず更衣室を借りて着替えることにした。 「おっきい…」 着ていたTシャツの上から、被っても、肩と裾がかなりダボつく。裾はハーフパンツにインして、袖口も2回くらい折り曲げた。 屈伸してその場でジャンプ2回。体は思ってたより軽かった。 フットサルはGK1人、フィールドプレーヤー4人。そしてベンチの選手が5人。ベンチメンバーは、審判に申告することなく、自由に交代できる。交代要員は最大7人。だけどfirstには、今、私を入れて5人しか交代要員はいない。 波岡のドリブルに山崎さんが合わせる。左足から繰り出したシュートは、惜しくもゴールポストの右に逸れて行ってしまう。 「あ~~~~」 ベンチのメンバー4人で、同時に落胆のため息をついた。前後半15分ずつだけど、既に前半10分経過して、スコアは2対0。こっちはまだ無得点。 ちょくちょく攻撃はしてるんだけど、得点に繋がらない。もどかしい場面が続いてる。 そう思ったら、波岡と目が合った。私に向かって、「来いよ、葉月」そう言って手招きする。 「え」 「行ってきなよ。負けてるし、気は楽に入れるでしょ」 背中を押してくれたのは、ずっと隣で声を張り上げて応援してた出口さん。二児のママなんだそう。 「いいんですか?」 「いいのいいの。見てるより、走った方が楽しいよ、絶対」 力強い笑顔に押されて私は、波岡のいるグランドに走った。 「言っとくけど期待しないでよ」 昔のあんたと張り合ってグランド駆け回ってた頃とは違う。体力差のハンデも、ブランクもある。波岡につい言い訳めいたことを言ってしまう。 「楽しめばいいんだよ」 サッカーボールより一回り小さいボールを、膝で軽く蹴ってから、波岡はいきなり私に向かってパスしてきた。 う、嘘でしょ。 足元にボールをキープしながら、辺りを見回す。私の右手前方に、山崎さんの大きな背中が見えた。サッカーのグラウンドより、かなり小さいから、軽くキックすれば届きそう。 山崎さんにボールを託して、自分もゴール前に走る。全力疾走久しぶり。山崎さんから波岡とつないだボールは、また私の足元に返ってきた。 ゴールは目の前、ノーマーク。 勢いつけて走って、私はそのままボールを蹴りだす。 途中参加の、しかも女。相手チームは全く私に無警戒。だから、出来たんだと思う。 ボールは白いラインを越えて、審判が「ゴール」の笛を吹いた。
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