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「うん、いいよ。どうした?」
山崎さんは快諾してくれて、女の子でごった返した売り場から離れて、近くのラーメン屋に入った。なんでラーメンなんだろう…いや、いんだけど。
どうせ帰ってもごはんないし、私もここで夕飯済ませちゃおう。
「味噌バターコーン味玉載せで」
「お、葉月ちゃんも責めるね。俺は醤油とんこつの大盛もやしマシマシで」
小さな館内に湯気とラーメンのスープの匂いが立ち込める。
「で、どしたの? 志貴にコクる気になった?」
「な…んでわかるんですか?」
「いやーチョコ買う時の表情がさ。本気モード入ってたから」
山崎さんと言い、真壁さんと言い、どうして私の周りの男の人は、鋭い人が多いんだろう。それとも私はそんなにわかりやすいんだろうか…。
「…波岡の身体…もしかしてこれが原因なのかな、って理由を思い出しちゃって…。もちろん、本人に問いただしたり出来ないし、相談したい、って言ったのに、今、ここで山崎さんに詳細を言うことも出来ないんですけど。すごいもやもやしてて…」
私のセリフに、山崎さんの目の色が変わる。
「葉月ちゃんに関係あることなの?」
ああ、この人もそうだ、私と同じくらい、波岡のこと、考えてくれている人だ。
ここ数日、私の頭を占めている想像を、言葉にする前に整理する。考えなしの発言、ポンポンしちゃう方だから、慎重に。
あの日、波岡が目にして、私に必死に隠そうとしたもの――それは、波岡のお母さんと、波岡の知らない男性とのベッドシーンだったんじゃないかな。
そう考えれば、すべてがつながる気がした。
トラウマみたいなものだ、って波岡の言葉も。
お母さんにそっけない態度をとるのも。
だってショック大きい。親のそういうシーン…まして、自分の父親以外の人と――なんて。しかも、それをクラスメートと一緒に目撃。
誰だって、恋愛に後ろ向きになる。
「直接、関係はないんですけど、たまたま現場に居合わせたっていうか…」
「…でも、葉月ちゃん自身のトラウマにはなっていない。どころか、ずっと忘れてた」
「う、はい…」
「志貴はああ見えて、繊細だからなあ」
「ですよね。私、最近、朝から晩まで波岡のことばっかり考えてて、悔しいから、このもやもやを波岡に告白って形でぶつけてやろうかと思って」
「そこで、そう来る! 告白をボールみたいに扱う、葉月ちゃん好きだな」
あはは、と山崎さんはから笑いをする。
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