8 甘いチョコと苦いキス

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「うん、いいよ。どうした?」 山崎さんは快諾してくれて、女の子でごった返した売り場から離れて、近くのラーメン屋に入った。なんでラーメンなんだろう…いや、いんだけど。 どうせ帰ってもごはんないし、私もここで夕飯済ませちゃおう。 「味噌バターコーン味玉載せで」 「お、葉月ちゃんも責めるね。俺は醤油とんこつの大盛もやしマシマシで」 小さな館内に湯気とラーメンのスープの匂いが立ち込める。 「で、どしたの? 志貴にコクる気になった?」 「な…んでわかるんですか?」 「いやーチョコ買う時の表情がさ。本気モード入ってたから」 山崎さんと言い、真壁さんと言い、どうして私の周りの男の人は、鋭い人が多いんだろう。それとも私はそんなにわかりやすいんだろうか…。 「…波岡の身体…もしかしてこれが原因なのかな、って理由を思い出しちゃって…。もちろん、本人に問いただしたり出来ないし、相談したい、って言ったのに、今、ここで山崎さんに詳細を言うことも出来ないんですけど。すごいもやもやしてて…」 私のセリフに、山崎さんの目の色が変わる。 「葉月ちゃんに関係あることなの?」 ああ、この人もそうだ、私と同じくらい、波岡のこと、考えてくれている人だ。 ここ数日、私の頭を占めている想像を、言葉にする前に整理する。考えなしの発言、ポンポンしちゃう方だから、慎重に。 あの日、波岡が目にして、私に必死に隠そうとしたもの――それは、波岡のお母さんと、波岡の知らない男性とのベッドシーンだったんじゃないかな。 そう考えれば、すべてがつながる気がした。 トラウマみたいなものだ、って波岡の言葉も。 お母さんにそっけない態度をとるのも。 だってショック大きい。親のそういうシーン…まして、自分の父親以外の人と――なんて。しかも、それをクラスメートと一緒に目撃。 誰だって、恋愛に後ろ向きになる。 「直接、関係はないんですけど、たまたま現場に居合わせたっていうか…」 「…でも、葉月ちゃん自身のトラウマにはなっていない。どころか、ずっと忘れてた」 「う、はい…」 「志貴はああ見えて、繊細だからなあ」 「ですよね。私、最近、朝から晩まで波岡のことばっかり考えてて、悔しいから、このもやもやを波岡に告白って形でぶつけてやろうかと思って」 「そこで、そう来る! 告白をボールみたいに扱う、葉月ちゃん好きだな」 あはは、と山崎さんはから笑いをする。
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