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4 走って笑って
「葉月、こっちこっち」
土曜日、私が波岡との待ち合わせ場所につくと、波岡は既に待っていて、大きく腕を振って存在をアピールする。
「すぐにわかった?」
「あ、うん。グーグルマップ先生に導いてもらった…」
「なら良かった」
波岡がぐいと私の手を引いて、芝のグラウンドの中に入っていく。
スポーツバックをベンチに置いて、波岡がウィンドブレーカーを脱ぐと、派手なダークブルーのシャツに派手な蛍光グリーンのロゴのTシャツ。
コートサイドに波岡と同じTシャツ姿の男女が10人くらい揃ってた。これっ
て何かのユニフォーム…?
足元にはボール…サッカーボールとはちょっと違うけど、一人の男の人は、それを足で抑えつけてる。
「ここって…」
「フットサルチームなんだ。Firstってチーム名の」
「First…あ、ほんとだ」
波岡の胸元のロゴにも同じ文字が書かれてる。
「初心者もフットサル大好きな奴も大歓迎って意味なんだ。俺がチームリーダーの山崎」
親指で自分を指さし、にっと笑ったのは、足元にサッカーボールのある男の人。波岡と同じくらいの身長だけど、波岡よりずっと肩幅広くて、ガタイがいい。
身体はいかついけど、笑顔は人懐こくて、優しそうな感じの人だ。
「あ、初めまして。水田葉月です」
「葉月ちゃん。お噂は志貴からかねがね」
「え、どんな…」
「チームに入ってくれそうなのがいるって」
「え」
何それ聞いてない。きっと波岡を睨むと、露骨に目を逸らされた。
「うちは体力向上を目指して、やってるフットサルチームだからさ。もちろん、女性も大歓迎。今日は見学って聞いてるけど」
「私は何も聞いてないです」
「志貴~」
「いやだって、最初からフットサルなんて聞いたら、来なかっただろ?」
「…そんなことはないよ」
最初は波岡たちを見ていたんだけど、波岡と遊んでたせいで、中学高校と女子サッカー部に入ってて、大学でもサークルでやってたから。
最近動いてなくて、体がなまってたせいもあるけど、ちょっとテンション上がってきた。
今日は地元のチームが数チーム集まっての、リーグ形式の大会らしい。優勝チームには近くの飲み屋の飲み放題人数分ということもあって、みんな結構真剣だった。
1試合目は勝ったけど、2試合目は負けてしまう。フットサルは初めてだけど、じっと見てたら、ルールや試合の流れはわかってきて、うずうずしてきた。
「混じりたくなってきた?」
前のめりでベンチで見ていた私の心中を見透かしたように、波岡が聞いてくる。
「ちょ、ちょっと…。でも、私、ずっとやってないし、感覚…ぶはっ」
やりたい気持ちとしり込みする気持ちと半々って言いたかったのに、頭の上に何か降ってきて、私の言葉は途切れさせられた。
「ユニフォーム、俺の予備貸してやる。出るか?」
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