7  澄んだ願い

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7  澄んだ願い

「新メンバーの水田葉月です。高校は女子サッカーやってました。フットサルは初めてですが、早く慣れたいです」 ありきたりな自己紹介をすると、わーっと拍手が上がって、照れくさくなる。 結局firstに正式に入れてもらうことにして、そのご挨拶。練習前に代表の山崎さんから、ご挨拶の場をいただいて――なんだけど、人前で喋るのは、やっぱり向いてない。 「水田さんは絶対、入るような気がしてた」 予言めいたことを言ったのは、この間のトーナメントの時、ベンチでうずうずしてた私に声を掛けてくれた横山さん。 「え、そうですか?」 「うん。楽しそうだったし、波岡くんとの息もぴったりだったしね」 …傍目にはそう見えたのか…。 当の本人には、「入らないって言ったくせに、どういう風の吹き回し?」なんて嫌味言われたけど。 12月はサークルで忙しく、年末に久しぶりに実家に帰ったら。「お姉ちゃん、痩せた?」なんて妹の睦月に言われた。 「ちょっと引き締まったかも。今、休みの日はなるべくフットサルサークル出るようにしてるんだ」 おこたに入りながら、私は睦月の質問に返す。あー、実家いい。おこたいい。帰ってきた実感を、噛みしめる。 「あら、いいわね」 「うん。楽しいよ。やっぱり運動すると、発散するよね」 「新しいお仕事はどう?」 そういえば、転職してから、実家に帰るのは初めてだったことを思い出す。 お茶請け用の鉢に、お母さんがおせんべいとみかんをどっさり入れて、私の前に座る。あ、これ、私の好きな奴。 誘惑に耐えられなくて、ゆず胡椒の効いたおせんべいをばりばり齧りながら答える。 「だいぶ慣れてきた。覚えること沢山で大変だけど」 「お姉ちゃん、病院の医療事務やってるんだっけ」 「うん。――そういえば言ったっけ。小学校の同級生の波岡と、今、同じ病院で働いてんの」 「波岡さんて…あなたが5年生くらいの時に転校した…?」 「うっそ、お姉ちゃんの初恋の相手じゃん」 「え、そうなの?」 睦月が余計なことまで思い出して、お母さんが意外な顔をする。 「そうだよ! ねえ、お姉ちゃん」 「…う、うん、そうだった、かな…」 「すごい偶然だね。運命的!」 睦月はひとりで盛り上がってる。 「初恋はいいけど、あなた、年末に一緒に連れてくるような彼氏いないの?」 「え」 「え、じゃないわよ。来年は27になるのよ」 「そうだけど」 「ぼやぼやしてると、あっという間に30代よ?」 わかりきってることを敢えて口にする。お母さんのこれはアレかな、つまり、早く結婚しろ、的な。 波岡と今は、ニセのカノジョとして付き合ってる、なんて言えねえなあ。
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