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8 甘いチョコと苦いキス
「バレンタイン?」
「そう。主任にどんなのあげるの?」
宮内さんに興味津々に聞かれてしまった…けど。
そういえば、二月にはそんなイベントがあったなあ。…という程度。恋愛からずっと遠ざかってたから。
「あはは、まだ準備してなくて。やっぱり手作りですかねえ」
女子力が低いことでは自他ともに認めざるを得ない私、水田葉月だけど、お菓子だけは大得意――なんて意外性もなく。
トリュフ作っても、クランチ作っても、ブラウニー作っても…見た目は全部犬の●。
買った方が無難かなあ…というか、波岡は私からのチョコなんて、欲しいのか?
私だったら、私からの手作りよりも、チロルチョコがいい。
小学校の時は、波岡沢山貰ってたなあ、羨ましいくらい。私は渡せなかったけど。近くにいすぎて、あの頃は好きとか特別とか思ってなかったし、やっと自覚したと思えば、波岡転校しちゃうし。
ニセカノなんだし、わざわざ職場で見せつけるように渡すのも不自然だし、用意する必要ないでしょ…と思うんだけど、水田葉月個人としては、渡したい気持ちもあって、困っている。
着付けしてもらったり、実家から家まで送ってもらったり、一応、お世話になってるから、義理の意味も込めて。言い訳ばっかり浮かぶけど、本音は、私が波岡にチョコをあげたいんだ。
この季節は、スーパー行っても、雑貨屋行っても、チョコチョコチョコ!
ハートもあちこち乱舞してて、なかなか踏ん切りがつかない私としては、煽られてる感半端ない。
――まあ、一応買っておくくらいなら…。
だけど、あまりに種類が多すぎて、ひとつになんて決められない。そもそも、あいつチョコとか食うのか?
売り場で腕を組んで、眉間に皺を寄せて、迷ってた時だった。
「あれ、葉月ちゃんじゃん」
名前を呼ばれて、くるっと振り向いたら、山崎さんが立っていた。
ピンクやハートのラッピングが飛び交う売り場で、山崎さんの巨体って浮くなあ。
「こんにちは」
背景とのミスマッチに笑いそうになりながら、私は挨拶する。
「何、葉月ちゃん、志貴にチョコ渡すの?」
山崎さんは興味津々だ。
ちょっと相談してみようか、この間から一人で悶々と悩んでること…。
「あの、山崎さん、今、お時間ありますか? 5分くらいでもいいんで」
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