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最初に、水琴に出会った時のことを、俺は、まだ、よく、覚えている。
水琴が5才、俺が4才のときのことだった。
水琴は、天使のようにかわいかった。
ふわふわの茶色がかった髪に、丸い黒い瞳の美幼児だった。
俺は、そのときから、水琴をお嫁さんにしようと決めていた。
ところで、この世界には、男女の性の他に、三つの性がある。
それは、支配者のαと、被支配者であり、産む性であるΩ、そして、その他であるβだった。
俺は、親父に似てαになるに違いないと確信していた。
だから、俺は、毎日、水琴のために祈っていた。
水琴がΩになりますように、と。
そして。
月日は、流れて、水琴が16才、俺が、15才になった、春。
俺は、水琴と同じ高校に入学したのをきっかけに、本格的な交際をするため、水琴に告白した。
桜の枚散る下で、俺は、水琴に言った。
「水琴、俺と、付き合ってください」
水琴は、優しく微笑んで。
「無理、だから」
「ええっ?」
「だって、俺たち、男同士だし」
水琴は、冷たく言って、背を向けた。 俺は、水琴に追いすがって言った。
「だって、約束したじゃん。大きくなったら、結婚しようって」
「結婚って」
水琴は、言った。
「俺たちが、どこをどうやったら、結婚できるんだよ」
「それは」
俺は、言った。
「愛の力で」
「何が、愛だ!」
水琴が言った。
「お前、昔から、俺に変ないたずらばっかしてたじゃないか。ロープで縛ったり、手錠をかけたり。お前、どっか、変なんだよ。もう、俺に、近寄らないでくれ!」
こうして。
俺の初恋は、破れた。
俺は、ずたずたになった心を抱えて、家へと帰った。
帰り道の途中に、ボロボロの小さな社があった。
俺は、社の前に立ち止まって言った。
「お前も、俺と同じでボロボロになって、捨てられてんな。なぁ、神様」
俺は、ため息をついた。
「ああっ、何処かに、俺好みの意思が弱くて、流されやすい、美人のΩのお兄さんがいないかなぁ。それでもって」
俺は、言った。
「一生、俺だけを愛してくれる人」
『その願い、叶えよう』
誰かが言ったような気がして、俺は、辺りをきょろきょろ見回した。
が。
誰も、いなかった。
俺は、自嘲ぎみに言った。
「そんなわけないか」
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