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愛しい、息子と娘。
それから、可愛い孫達。
私は皆に囲まれて本当に幸せな人生だった。
病室で今まさに私は旅立とうとしていた。
「おばあちゃん!」
「お母さん!」
ありがとう。貴方達といられてしあわせだったわ。
皆の声を聞きながら、静かに意識を手放した。
・・・・・。
・・・・・・・・・・・。
「由加理?ねえ、どーしたの、ボーッとしちゃってさ。」
「えっ?」
夢でも見ているのか、ここはかつていた中学校の教室。
目の前には同級生の和佳子と栞菜がいた。
「あ、ううん。」
何で・・・。私は自分の両手を見つめた。あの頃の私だ。皺に刻まれた、干からびた様な死の間際の私ではない。ここは天国?それとも夢の中なのか?それにしては意識がはっきりしている。
「ほらぁ、トイレ行くよ~。」
二人が無理やり私を立たせて、半ば強引に引っ張る。
「ちょっ、止めてよ。どーしたの?痛い。」
さっきまでふと笑っていた栞菜の顔が曇った。
「てめぇ、なにタメ口きいてんだよ。」
えっ?
「本当、マジむかつくわ。」
同調するように和佳子が吐き捨てる。
「どーしたの、二人とも。」
だって、私達友達だったじゃない。なんで、こんな態度なの?
引きずられる私を周りは見てみぬ振りをする。
なに?どーいうこと?
トイレに入り、誰もいないのを確認すると、無理やり奥の個室に連れ込まれ、便器の中に顔を押し込められた。
く、苦しい。水が肺に入る。
息が出来ない。
「やめっ、くるし・・」
抵抗しても途切れ途切れに聞こえてくるのは二人の笑い声だけ。
私は何度も顔をあげようとするも、その度に押し付けられる。
「あ、おっそーい、杏子何してたの。始めてるよー。」
杏子?
「マジでこいつ死んでくれないかな、そー思わない杏子。」
杏子。
私の頭から手が外され、見上げた先にいたのは篠田杏子だった。
彼女は何も言わずに、私をただじっと見つめていた。
その酷く冷たい眼に、背筋が震えた。
篠田杏子は、現実で私(達)が虐めていたクラスメイトだった。
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