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「・・・・何が見えた。」
目の前にいる塚田杏子が私に問いかける。
今見たのは彼女から見た過去の記憶。
言葉がみつからない。
「・・・・。」
「何故答えないの。貴方の言うくだらないノートのせいで私は死んだ。貴方にはくだらなくても、私には一つの光であり、希望だったの。退屈だったから、気に入らなかったから・・・そんな事で他人の人生を終わらせる貴方の方がよっぽど・・・くだらない人間だわ、飯田由加理。」
「そ、そんなの・・・あんたの事情なんて知らないし、最初に話しかけた時に言ってくれれば良かったのよ。」
「仲良くもない貴方に、家の事なんて話すわけないでしょう。」
「だって・・・それに、あの日はあれは事故よ。あんたが飛び付いてくるから・・・私は投げるつもりなんて最初からなかったわ、ちゃんと返すつもりだったのよ!あの日の事は私だって反省してる。だから・・」
「償いのつもりで、大人しくなったの?普通の人の様に、振る舞ったの?貴方は、他人に人殺しだとバレない様に目立たなくしてただけじゃない。」
「・・・あんたに何がわかるのよ。あれから、認められる為に私がどんなに苦労したか知らないでしょ。どこに行っても虐めをした女だと陰口叩かれるのよ!あんたがバカみたいに必死になるから、あんなことになったんじゃない!」
ハッとして私は口を閉じた。
それほど塚田杏子は恐ろしい形相でこちらを睨んでいたから。
「貴方は、変わってないのね。なら、罰を受けてもらわなきゃ。」
「えっ?」
ドンッと体を突き飛ばされた感覚と、目の前には空が広がった。
凄い速度で落ちてゆく。
塚田杏子が私を覗き込んでいる。
落とされた。
あの日と逆転し、落ちているのは私だ。
やだ、やだ、死にたくない。
ビュッと風を切り、ゴキュと音がした。
頭に変な衝撃が走り、体が痛い。コンクリートは冷たく、視界は血で滲む。
地面に叩きつけられたんだ。
なんで・・・。
なんで・・・直ぐに死ねないの。
こんな、こんな痛くて苦しいの。
「・・・さん!」
「・・・・ちゃん!!」
「お母さん、大丈夫、しっかりして!」
ここは?
息が苦しい。
機械の音。
周りには・・・・子供と孫。
ここは・・・・病院。
私は、夢を見ていたようだ。
死ぬ間際、あんな夢を見るなんて・・・。
娘が私の手を取る。
「お母さん、しっかり。」
あんな過去はいらないわ。私は幸せだったの。そうよ、これが本当、これが現実だわ。
「・・・しっかりして。まだ、終わらないわ。」
えっ?
この声は娘じゃない。
この声は・・・。
病室の端に制服を着た少女が見えた。
塚田杏子だった。
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