相田 修一

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それから時は過ぎ、私はあの日から生活をガラリと変えた。 何かを変えるには、自分自身を変えなくてはいけない、そう思ったから。 まともに勉強してこなかった私にはかなり辛かったけど、何とか志望校に合格し、自分の将来の為ひたすら勉強に打ち込んだ。 その間に親友も出来た、上手くはないけど自分でお弁当も作ってる。 お父さんには味噌汁がしょっぱいと言われてるけど、最近いつも笑ってる。 おじいちゃんは眠ってることが多くなって、ちょっと心配ではあるんだけど、お医者さんに聞くと特に体が悪いわけではないらしい。 母がいなくて陰口を叩かれる事もあった。 何度も周りや自分の境遇を恨んだ。 だけど、今は違うんだ。 大変だけど、毎日が充実してて、楽しいんだお母さん、おばあちゃん。 「愛菜、何ボケッと空見てんの。帰ろう。」 「うん。」 笑顔の親友に私も笑顔で返す。 そんな幸せが続くと思った。 あの日までは・・・。 高校3年生、私の進路は決まっていた。 看護師になりたい。 そう言って父を見ると「お前ならなれるよ。」と笑った。 その日の夜、喉が乾いた私がキッチンへ続く廊下を歩いていると、仏間から光が漏れていた。 気になってそっと覗き込むと、父が「良かった。」と言っているのが聞こえた。 こちらからは座り込む後ろ姿しか見えないが、母と祖母に話しかけている様だった。 時折声をつまらせているその後ろ姿は、随分と小さく感じた。 顔の皺も増えて、あちこち体が痛いと言う事も多くなった。 今度は私が、お父さんとおじいちゃんを守るよ。 ずっとそうしてもらってたんだ。 だから・・・。 頬を涙が伝った。 これは、もう悲しい涙ではない。 これは、決意の涙。 看護学校へ入り、毎日慣れない単語や実習に体は悲鳴をあげてはいたが、不思議と辛くはなかった。 苦手な所は、他の仲間の力を借りて互いを励まし合った日々はかけがえのない宝物だった。 だけど、学校卒業してすぐの頃今度は祖父が亡くなった。 不幸中の幸いなのは、祖父は苦しむことはなく、眠ったまま亡くなった事だ。 親と子の二人だけになってしまった。 だから、勤務先の病院近くで独り暮らしを始めたものの、休みの前日には実家へ足を向けている。 お前も年頃なんだから、彼氏でも作って遊べばいいよと言う割に、顔を見せれば嬉しそうだし、一緒にお酒も飲む様になった。 顔を赤くした父が話すのはいつも昔話。 私の知らないお母さんの話を聞くのは楽しい。 しっかりしていそうで、どこか抜けてたり。かと思えば気が強くて頑固だったり。 そんなとこは愛菜はソックリだな、なんてそこに母がいるかの様に父は話す。 「さて、買い物終わり。」 その日も、いつもと同じように実家へ行く途中のスーパーで買い物をした。 片方にスーパーの袋を持ち、車道側にショルダーバッグを提げて家への道を歩いていた。
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