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えっ?
聞いたこともない名前だ。
そして、頭の中が混乱する。
「相田修一。」
言葉に出す。
私は綾瀬・・・愛菜。
綾瀬・・・愛菜・・・では、ない。
「思い出しましたか?相田修一さん。」
そうだ。
俺の名前は相田修一だ。
そして、あの日綾瀬愛菜からバッグを引ったくったのは・・・・・俺だ。
思い出した瞬間、吐き気と目眩が襲う。
俺だ。
俺があの子を・・・。
立っていられず、俺はその場にヘナヘナと座り込み頭を抱えた。
「良かった。思い出したみたいですね。」
いつの間にか女は俺の目の前に立っていた。
「誰だ、あんた。ここは、どこだ。」
睨み付けるが、全く怯む様子もなく俺を冷たい瞳で見下ろしている事に怖くなった。
警察なのか?
俺はどーなった?
「相田さん、あなたは綾瀬愛菜さんを殺しましたね。」
「・・・それは。」
ピカピカに磨かれた床を見ながら言葉に詰まる。
「あなたにはそれなりの罰を受けて貰います。あなたは、遊ぶお金欲しさという身勝手な理由で彼女の命を奪ったのですから。」
女の声はどこか冷たく、俺は何も言い返せない。
確かに、俺は金が欲しかった。でも、それには理由がある。
家族の中はいつも殺伐としてた。父親が浮気して離婚。俺は父に引き取られたが、父はその浮気相手と再婚。
俺はそんな父親も、やたら女を主張してくる化粧臭い女も嫌いだった。
本当は母さんについていきたかったのに、育てることが難しいと考えた母親は親権を父親に譲った。
裏切られたと思い深く傷ついた俺はそこから荒れた。
高校も行かなくなって、悪い奴らとつるんで犯罪を犯すようになった。
それでも父親は俺を無視した。
あいつにとって俺はただのお荷物で、あの化粧臭い女はゴミを見るような目付きで俺をみる。
耐えられなくなった俺は家を出て、それからは仲間の家にたむろしている。
金が無くなれば奪えばいい。
至極簡単な事だ。
だから・・・。
だから、あの日も簡単に終わるはずだった。
なのに、バッグを離さなくて、でも、後には引けなくて、力任せに引っ張った。
そしたら、車道に飛び出した彼女は、そのまま後方にいたトラックに・・・。
「うっ・・・。」
彼女の感情が溢れ出る。
死にたくないという思いと、彼女の半生が頭をグルグル回る。
まて、俺は?俺はどーなった?あの後、俺は・・・。
「運転操作を過ったあなたは、その後すぐ電柱に激突して死亡したわ。」
えっ?
死んだ?
俺は死んだ?
「えっ、じゃあここは?ここは、どこなんだ?」
女は表情を崩さずに静かに口を開いた。
「地獄の入り口ですよ。」
地獄?ここが?
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