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それぞれのValentineday2
「ふぁ~…。」
我慢することなくしたあくびの後に吸い込んだ空気は、どことなく甘さを含んでいるような気がする。
視界に入るほとんどの女子達は、可愛らしくラッピングされた物を持っている。
多少顔が整っている方の俺は毎年それなりの数をもらっては来たが、今年欲しいのはたった1つだけ。
…まぁ、もらえないんだろうけど。
いろいろなところでチョコの受け渡しが行われてるのをなんとなく眺めながら教室に向かう。
ドンッ!
突然横から軽い衝撃を受け、咄嗟にぶつかってきた相手の腕を掴んだ。
「あっぶねー。おい、大丈夫か…って。」
相手も驚いたのか目を見開いてこちらを見ていた。
その瞳からポロッと一粒涙がこぼれた。
「なっ!?泣くほど痛かったか?」
「泣いてないっ!手離して!」
「なんだよ、転ばずにすんで良かっただろーが。」
掴んでいた手は離したが、その腕の細さを忘れないようそっと手を握る。
ふと足元を見ると、きれいにラッピングされた物が落ちていた。
目の前の手が伸びるより早く、俺はそれを拾い上げる。
「返してよ!」
「これお前が作ったの?」
「だったらなに?榊には関係ないでしょ。」
「ふーん。…これ俺がもらってやるよ。」
「はぁ?!何言ってんの?あんたに作った訳じゃないんだけど。さっさと返して!」
「今井先輩のために作ったんだろ?でも受け取ってもらえなかった。なら俺がもらってもいいよな?」
「!?…意味分かんない。」
「ほら、教室行くぞ。」
無理矢理取り返えそうと伸びてきた手をかわし、ほぼ強引にチョコをもらう。
ガキの様にしか接してこれなかったから、彼女はきっと俺があまり好きではないと思う。
顔を合わせればきつい言葉しか返ってこなくなった。それも小動物が威嚇しているようで可愛いんだけどな。
自業自得だけどもらえるわけなかった好きな子の手作りチョコが自分の手の中にある。
好きな子が自分ではない男を思いながら作ったそれは、きっと美味しくて美味しくない。
2021/2/14
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