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真田九勇士
「三吉先生、この責任はどう取られるおつもりですか?」
「…責任を取って、辞任いたします」
三吉伊咲は高校で地理歴史を教える25歳の若手教師だった。
伊咲の授業はわかりやすく面白いと評判で、
彼女に勉強を見てもらおうと
放課後に職員室を訪れる常連生徒も複数名抱えていた。
そんな伊咲が辞任に追い込まれることになるとは
生徒達も、そして伊咲自身も思いもしなかっただろうーーー
そして現在ーーー伊咲は就職活動をしつつ、コツコツ貯めていたお金を使って
教師時代は忙しくて実行出来ずにいた
日本全国史跡巡りの旅に来ていた。
「えーっと、関東圏のお城や自社仏閣はほとんど制覇したし…
よーし次は、あそこに行こう!」
伊咲が新幹線に乗り込んで向かう先は長野県。
目当ては上田城跡だ。
「第一次・第二次上田合戦と言えば!
多数の兵を引き連れ迫り来る徳川軍に
少数精鋭の真田軍が勝利した戦いです!
後の大坂冬の陣での真田丸の攻防といい、
真田幸村の戦果は目覚ましいものでーーー…って」
そうだ。
私はもう教師を辞めたんだった。
つい生徒に教えている時のような口ぶりで、
こんな風に話して解説しよう!と
心の中で独り言を呟き続けていたことに気がついた伊咲は、ぐったりと項垂れた。
ダメダメ、いつまでも引きずってちゃ。
再就職先もなかなか見つからないし
落ち込まない訳がないけれども、
今くらい気分転換しなくちゃ!
気を取り直した伊咲は、新幹線を降りた足で早速、上田城跡を訪れた。
ーーーが、その地に足を踏み入れた瞬間
蝋燭の火が消えたようにフッと目の前が暗くなり、
伊咲はそのまま意識を手放してしまったーーー
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