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「此度の戦、ご苦労様だったわね」
「…いえ」
甚八は短く返事をし、時間が惜しいと言わんばかりに再び兵法書を読み始めた。
「ーーーあなたは昔から勉強好きよね」
「…次の戦で、同じような失敗をする訳にはいかないので。
次こそ必ず勝てる戦略を提案できなければ、
俺がここで召抱えられる意味がなくなる」
「甚八…」
お梅は甚八の背後から、そっと甚八を抱きしめた。
「あなたはどうして、そこまで自分を追い詰めるの?
これまでだって、それこそ幼い頃から勉学も武道も頑張ってきたじゃない。
今だって幸村様の右腕として活躍しているのだから、
一度の失敗で自分を責めないで」
「…その一度の失敗のために、真田や真田と共に戦った兵達が犠牲になった」
「っ…」
「俺が采配を誤らなければ。
…幸村様に、伊咲を頼るよう言う勇気があれば…」
「伊咲ーーーああ…」
「正直、俺は自分のここでの立場を守る為に
伊咲の予言には頼らず、かつ自身の策で戦功を上げたいと思っていました。
参謀としての知識への驕りや、俺の居場所を取って代わられることへの恐れーーー
そんな自己保身ばかりが先行したが為に、俺は何百もの兵を死なせてしまったんです」
「ーーー私たち二人とも、あの子に運命を狂わされた者同士、ね」
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