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お梅は声を震わせながら、甚八の首筋に顔をうずめた。
「…っ」
こそばゆい感触に思わず甚八が書を読む手を止めると、
お梅は彼の身体を仰向けに寝かせ、覆い被さった。
「…いっそ、私が早くあなたの子を産むことができたら、
あなたを元気付けてあげられるのにね」
「ーーー俺の子を産んでも、その子は幸村様の子となるのでしょう?
それにあなたの心も、俺のものにはならない」
「…っ!あなたまで、私のことを役立たずだと言いたいの?!」
突然お梅が発狂したような金切声を上げたため、甚八は驚いて体を起こした。
「お梅…様?」
「幸村様も甚八もっ!
私が嫡男を産めない出来損ないだと責めているのね?!」
「俺はそんなこと言ってませんーーー幸村様だって」
「幸村様は、大谷吉継殿の娘と祝言を挙げてからというもの、
あちらの娘の元へ行ったっきり帰ってこない!
私のことはもう必要じゃなくなってしまったのよ!」
「幸村様が戻って来ないのは、秀吉殿の馬廻衆に任命されたためです。
戦こそ敗れましたが、秀吉殿に以前から目を掛けられていた幸村様は
秀吉殿のいる大坂を拠点として政務に当たっているのです」
「そんなの、大谷殿の娘ーーーそう、利世殿と言ったかしら?
あの方の元へ通うために幸村様が志願したのでしょう?!」
「違います…」
甚八は必死にお梅を宥めたが、彼女は取り乱し続けた。
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