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お梅の元へ夕食を運んできた雛は、
部屋にお梅がいないことに気づき考えを巡らせた。
ーーーああ…
また甚八様とお会いしているのね。
正直、女中達がこぞって憧れる甚八様が
主君の妻と不倫しているなんて初めは信じられなかった。
お梅様からは、甚八様とは姉弟のように育ったと聞いていたから
親しく話している姿を見かけても
微笑ましく思うのみだった。
けれど近頃、幸村様に二人の関係を隠すために
私に見張りをさせるようになってからは
男女の結びつきがあることを知り、衝撃を受けた。
ーーーとはいえお梅様が精神的に追い詰められ、
日に日にやつれていく姿を見ていた私は
二人の不貞行為を責めたり、誰かに言い漏らすようなことはしなかった。
そんなことをすれば、お梅様は今すぐにでも死んでしまいそうなくらい弱っていらしたから。
…でも、変ね。
いつもは夜がふけた頃、お梅様の寝室にてお会いになるのに
お梅様は部屋に戻って来ておらず、夕食の刻だというのに姿が見えない。
…甚八様の部屋に行っているのかしら?
もしかしたら邪魔をしてしまいかねないけれど、
このまま姿が見えないのも心配だし、
甚八様への配膳がてら、見に行ってみよう。
「失礼します、甚八様…」
甚八の部屋の前に着き雛は呼びかけたが、
部屋の中から返事はなかった。
「…すみません、戸を開けさせて頂きますねーーー」
不在にしても夕食は置いていきたいと思い、
迷った末におずおずと引き戸を開けると、
雛の目には衝撃的な光景が飛び込んできた。
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