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「…なんとなくだけどね」
伊咲の歓迎会の夜、甚八を連れ出し話したあの時には既に、
甚八の最近の様子がおかしいことに気づき
彼がお梅を慕っているのではないかと見当をつけていたカイ。
その為どちらか、または両方が人生に悲観し死を選んだ時に
現世で添い遂げられる間柄ではない代わりに
互いに連れ立って心中することにしたのではないかと予測していた。
「…そっか。
カイは本当に、人のことをよく見ているね」
「ーーーそんなことないよ。
じゃあ、悪いけど後はよろしく頼むね」
「うん…」
カイが自室へ戻って行くと、解毒の作用なのか
うなされながら眠っている甚八の隣に座り
伊咲は深々と頭を下げた。
「…甚八さんの大切な人を、死に追いやって申し訳ありませんでした。
私はーーー自分が助かりたいがために予言をし、
その予言によって傷つく人が出る可能性を考えようともしませんでした」
すると、甚八はその声に反応したのか、
ピクッと身体を揺らした。
そしてうなされながら、寝言を呟こうとした。
「!」
伊咲が慌てて甚八の方へ顔を近づけると、
甚八が何を話しているのかが聞こえてきた。
「…手を…引いて下さい…。
あの夕暮れ時のように、俺の手を握って下さいーーー…」
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