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ーーー昼過ぎに、甚八は目を覚ました。
彼は夢の中で、12歳の頃の自分に戻っていた。
実家での居場所が無く、背丈より高いススキ野原を彷徨っていた甚八。
自分しかいないのに、寂しさを誰かに悟られないよう気を張って歩き続けていたが、
いよいよ道に迷い心細さが増して行く。
そんな時、遠くの方から駆け寄ってきたのは
太陽のような笑顔が印象的な、自分より幾分歳上の少女だった。
彼女は甚八を弟にすると言い出し、
自分の手を取るように告げた。
訝しがりながらも、勇気を出して
そっと彼女の手を掴もうとした時ーーー
彼女の姿はスッと闇の中へ消えてしまった。
どこだ…?
お梅様、どこにいる…?
あなたが俺を孤独から救い出してくれたのに、
また俺を一人にすると言うのですか…?
必死でお梅を探し、もがき続けていると
ようやくお梅が戻ってきて自分の手を掴んでくれた。
温かく柔らかい手に握り締められた12歳の甚八は、
安心したようにゆっくりと目を開いたーーー
しかし、自分が手を握っていたのは
お梅ではなく、憎いとすら思えていた相手のものだった。
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