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六花は呆れたように伊咲を見てため息をついた。
「…お梅様…は…」
「…亡くなったわ」
六花は淡々と告げたが、彼女の目がパンパンに腫れているのを見た甚八は
彼女が昨晩ずっと泣いていたのだということをすぐに悟った。
「ーーーそうですか」
「!…随分あっさりねぇ。
一緒に抱き合って心中しようとするくらいの仲なんだから、
そんな反応されると意外だわ」
「…俺もお梅様も、あの時に死をはっきりと決意していましたから。
自分が生きていたことには驚きましたが、
お梅様の死は初めから分かっていたことです」
「…こんな時まで冷めた性格なのねぇ…」
ーーー違う。
冷めているどころか、身体中が熱くたぎるほどの気持ちを持っていた。
甚八は心の中で呟いた。
お梅様、お梅様、お梅様…!
俺がここで仕えてきたのも、これから先を生きていく意味も、
すべてあなたと共にあることだったのに。
あなたは俺に振り向いてくれるどころか、
こうして現世に一人置いて行ってしまった。
これでは本当に、手の届かない存在のまま終わってしまったことになる。
12歳の頃から成人した後も共に過ごし、
身体も何度も重ねてきたのに、
俺と心を重ね合わせてくれることもなく
ただ幸村様のことだけを思い、思い抜いて死んで行った。
俺はこの世に留まり、これから先何をすればいい?
俺の居場所は、また消えてしまったのかーーー…
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