真田心中

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「とりあえず、あなたが目を覚ましたことを皆に報告してくるわ。 ーーーホラッ、アンタも起きなさい!」 「!…いたた…」 六花にスパンと背中を叩かれ、伊咲ははっと目を覚ました。 「…六花さん…? ーーー甚八さん!目覚めたんですね!!」 良かった、と安心したようにため息を溢す伊咲を見た甚八は お梅を死に追いやった憎い相手の伊咲が 自分のためにほっと息を吐く姿を見て複雑な胸中だった。 …この人は、自分が人一人を死に追いやった自覚がないのだろう。 だから、俺だけでも生き残って良かったと心から思っているみたいだ。 …生き残ってしまったことこそが俺にとっては不幸だと言うのに… 「じゃあ、私は食事を持ってきますね! 皆さんをお呼びするのは六花さんにお任せします」 「もー、寝落ちしてたんだから それくらい働くのは当然でしょう?! ほらっ、さっさと立って!行くわよ!」 六花と共に伊咲が部屋を出て行く姿を見届けた甚八は、深いため息を溢した。 賑やかな女二人がいなくなり、一人取り残された甚八は 嫌でも死の直前のお梅を思い出してしまったーーー 「甚八…私寂しいの…。 一人で死ぬことも寂しい…」 「お梅様は一人ではありませんよ。 俺がそばにいます」 「なら死ぬ間際も、死んだ後も、ずっと一緒にいてくれる…?」 「ーーーもちろんです」 お梅はそれを聞いてほっとすると、 懐から粉の入った袋を取り出した。 「これね…カイの部屋で茶道を教えた時に、 彼の目を盗んで持ってきた毒なの」 「!何故そのようなものを持ってこようと思ったのです? それに、カイに断りは入れなかったのですか?」 「本当は、幸村様にもしものことがあって 一族もろとも自害しなければならない事態になった場合に備えて手に入れていたの。 カイに事情を説明して手渡しで貰っても良かったかもしれないけど、 彼の作った毒で私が自害したって知れたら 彼が少しでも責任を感じてしまうかもしれないでしょう?」 「…カイを気遣ってのことでしたか」 「それにこの毒には、解毒剤がないと聞いたわ。 これを飲むということは、死を完全に受け入れ、決意しなければならないということ。 飲めば、確実に死ぬーーーそれだけの覚悟を持った時に飲もうと、今日まで隠し持っていたの」
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