真田心中

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「…つまり、あなたが今これを手にしているということは、 この世に全く未練がないと言うことなのですね?」 甚八が確認するように問いかけると、お梅は力なく頷いた。 「…実は、予言を聞いたあの後 本当に男児を産むことが叶わないのかと調べ漁って、 民間療法を色々試してみようとした時に 町医者に身体の調子を見てもらっていたの。 そしたらーーー男児どころか、 もう子どもを産めない身体になっていることが分かった…」 「!…では、例え俺の子であっても お梅様が孕むことはーーー」 「そう、できないの。 だから私は本当にもう、ただの役立たず。 私が産んだ娘達と、もっと向き合って愛する努力をしなければと感じつつも 産んでもいない男児のことを思って咽び泣く毎日だった」 甚八はお梅の悲しみを深く受け止めると同時に、ある疑問が湧いてきた。 「…子を産めないことを分かった後も、 尚も俺と関係を持っていたのは何故なのですか?」 するとお梅は力なく微笑み、自ら着物を脱ぎ捨てた。 「だってーーー甚八と肌を重ねている間は、 あなたに守られているようで心地良かったから」 「俺はいつだって、あなたを守ってきたつもりでした」 「ええ、そうよね…。 …そうなのよね…」 お梅の声は、次第に弱いものへと変わっていった。 「ーーーごめんなさい。 あなたの気持ちに気付いていながら、 自分に都合の良い関係で居ようとしていたこと…。 だけど、あなたと交わった時 幸村様とでは感じたことのなかった快楽を得て…、 初めてあなたに、唯の弟とは少し異なる気持ちが湧いたのも事実なのよ」
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