真田心中

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「それは聞き捨てならないよ」 カイは表情からふっと笑みを消した。 普段、意見する時や誰かを叱る時でも微笑んでいる表情しか見せないカイが 能面のような顔をしていることに 甚八も六花も、ぶるりと震え上がった。 「真田に守る価値がない? …君の主君は幸村様だろう? 主君が健在で、真田の為にこれからも戦っていこうとしているというのに 何故君は勝手に命を投げ出し、勝手に真田のことを諦めているのかな」 「…俺にとっては、本当に守りたいのはお梅様だけだった。 幸村様や真田十勇士のことは嫌いではないが、 俺が命を捧げていたのはーーー」 甚八が言いかけた時、 パン!と鋭い音が室内に響き渡った。 「ーーーああ、ごめん。 殴るのは苦手だから平手打ちにしてみたけど 病み上がりの甚八にはこたえたかな?」 「…っ!」 自分が、カイに頬をぶたれたことを理解した甚八は 驚きのあまり言葉を発せなかった。 「甚八が勘違いしているようだから、 僕が教えてあげないとね…。 僕達真田十勇士の命は、幸村様のものーーーってこと。 なぜなら、僕達に対して報酬を支払っているのが幸村様だから」 「…」 「君が何のために働くのかなんて、僕は興味ないけど。 君の命を投げ出して良い時は、幸村様を守って死ぬ時だけだ。 だから僕は、心中なんて馬鹿げた真似で命を投げ出そうとしていた君を助けた。 それだけのことだよ」
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