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「どういうこと?」
カイが不思議そうに尋ねると、伊咲は
カイの母の気持ちを自分に重ね合わせるようにして考え、こう答えた。
「カイのお母様は、全て自分がそれをしたくて行動してきたんでしょう?
真面目に村の教えを守ったことも、
自分が傷を負いながらも六花さんを守ったことも」
「…その行動が、母の為になることなんてなかったよ」
「村の教えを守ることで、カイが村で爪弾きになることを避けられたんでしょう?」
「結果的に僕は村を抜け出したけどね」
「それでも、自分の子どもや近所の女の子を守る為に自分を犠牲にすることは
カイのお母さん自身、それが犠牲だとは考えていなかったんじゃないかな」
伊咲がそう言うと、カイは戸惑うようにして机の上にある、調合仕掛けの解毒剤を手に取った。
「僕がもっと昔に伊咲と知り合っていて…
人の命を救う薬を作ることに関心を寄せていたのなら…
ただ闇雲に人の命を奪うだけの薬を
自らの手で生み出すこともなかったのかな」
「カイ…」
伊咲は思わずカイを抱きしめた。
「…そうかもしれないよね。
私がもしカイと早くに出会っていたなら、
カイのお母様は違った人生を歩んでいたかもしれない。
ーーーでも、カイが村を飛び出して来なかったら
私はカイと出会うこともなかったよ」
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