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「…う…ん」
伊咲が意識を取り戻した時、そこは観光地として整備された上田城跡ではなかった。
目の前には梯郭式の平城が建っており、
明らかに跡地などではなく現役そのものの姿で鎮座している。
え…?上田城って跡地のはずなのに…
こんな立派な平城が現存しているはずはーーーっていうか、あれ?
なんだか景色を見渡す目線がいつもより高くない?
伊咲がはっとして足元を見ると、
自身の体が木の柱のようなものに縛り付けられている様子が視界に入ってきた。
「えっ…、えええ?!」
何これ、動けない!?
手も足も縄のようなもので縛られているみたい!
足元が地面から浮いているし、これって文字通り吊し上げられているんじゃーーー
「おい、怪しい女!」
伊咲がパニックになりつつも状況を整理しようとしていると、
視界の端の方から着物を纏った男が歩み寄って来るのが見えた。
「あの、これってどういう状況…」
「お主に問う!
怪しい身なりをしているが、何者なのだ?!」
「…あのぅ…。
すみません、これを外してもらえませんか?」
「質問に答えよ!」
「!…わ、私が何をしたって言うんですか?!
私はただのーーー…っ」
「ただの、何だ?!」
「…ただの…無職の25歳、観光客です!!」
伊咲が声を枯らして叫ぶと、男は不審そうな顔をしたまま
「ここで待っておれ」
と告げ、来た道を引き返してしまった。
「えっ?!あの、助けてーーー…」
一人取り残された伊咲は
この状況を整理しようと思考を巡らせた。
上田城跡に入ってすぐに意識を手放して、
気がついたら無かったはずのお城が建っていて…
私はなぜか吊し上げにされていて、
着物にマゲを結った男性の登場ーーー
これはもしや、もしかしなくとも…
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