真田九勇士

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伊咲が驚いて小助に目を向けると、彼は容姿が幸村にどことなく似ているように感じた。 しかしその目つきや話し声は、幸村とはむしろ対極にあるように思える。 「あのさぁ、鎌之助と清海、それからカイは女に基本優しいからこんな風に言うけどよ。 普通お前みたいに不審の塊な女、牢から出すだけでも異常事態なんだよ」 「こら、小助。 そんなこと言うもんじゃないだろ」 小助を嗜めたのは十蔵だった。 低い声に、品の良い着物を纏った、趣のある出立をしている。 「伊咲殿、彼は好戦的な性格でね。 返す返す言うけれど、彼が女に厳しいだけだから、気にしなくていいよ」 「あっ…、ありがとうございます」 しかし小助の追撃は止まなかった。 「大体さ。 いくら甚八が監視しているからといって、 さすがに厠や湯あみには付いていけないだろ? いつでも逃げ出して徳川軍に戻る機会があるじゃねえか」 「私っ、徳川軍の人間じゃありませんってば!」 伊咲が慌てて反論しようとした時、 すっ、と甚八が彼女の前に出てきた。 「小助」 「な…んだよ、甚八。 まさかこの女に取り入られてーーー」 「厠も湯あみも俺が側で監視します。 それで問題ないでしょう?」 「?!」 伊咲は思わず顔を赤らめた。 厠や湯あみって…トイレもお風呂も同じ部屋で見張られるってこと?! ーーーあれ? でも昨日の夜は、厠の場所を教えてくれたっきり 部屋の外にすら留まらないでどこかへ行っちゃったような… この人、本当に私のこと監視する気はあるのかな? 甚八の言葉の真相を悶々と考えていると、 幸村が七勇士に向かって言った。 「まあ、取り敢えずここまでにしよう。 そういうわけで、彼女ーーー伊咲と呼んでもいいかな?」 「!は、はい、もちろんです!」 「うん、伊咲。 彼女を城内の屋敷に住まわせることとする。 間も無く始まる徳川軍との戦を終え、予言の真偽が分かるまで、ね」 「…ありがとう…ございます」 ーーーどうしよう。 もし私の予言が外れたら、処刑するのかな…? いやいや私の知る日本史に間違いがなければ、 私の話した内容は本当のことになるはず…! 「では、甚八。 早速伊咲を湯あみ場に連れて行ってあげて。 あと六花は着物を貸してあげるように」
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